episode 31 ページ34
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撮影の休憩中、ちょっと周辺をぶらつこうと思ったのはたまたまだった。
そこでAを見かけたのは全くの予想外だった。
「……!?」
なんであいつが!?しかもそっち撮影場所じゃねえし、どこ行くんだ……?
程なくしてAが入ったのは、撮影場所からあまり離れていない本屋。
は?ここ?ここなら撮影場所のそばの道通った方が早えのに。わざわざ遠回りした?
……何のために?
最後に会った時のことが蘇る。男の車に乗り込む、遠いAの姿。
時間なんて見ずに、俺は早足で本屋へ入った。
店内の本を検索できる機械に触れ、悩んでいるAに後ろから抱きつく。
「何してんの?」
Aの手に自分の手を重ね、体を密着させて囁く。
俺の名前を呼ぼうとした彼女の口を手で押さえ、静かにすることを促してから、彼女の反応を見るが。
赤くなってもねえ。なんで平常心なんだよ。
……こっちは普通にドキドキしてんだけど。
んん、と言いながら、困惑した目で見てくるA。
「なに?静かにしろよ……それとも、口で塞いでほしいの?」
吐息が耳にかかるように唇を近く寄せて、熱っぽく誘惑する。
やられっぱなしは性に合わない。お前も俺にドキドキすればいい。
ついでに、俺に落ちれば……。
「……静かになったか」
騒いでくれれば口実ができたのに。
舌打ちしたい気持ちを抱いたところで、俺は自分の本音に気がついた。
単なる仕返しなんかじゃない。自分がそうしたかったからだ。
俺が、Aのことを。
――おい、それは。ダセェ。ダサすぎる。
こんな俺Aに見せらんねえ。
Aが振り向いてくるのに気付いて同じ方向に顔を背け、そのまま連れ出した。
何か言いかけたAだが、掴んでいる手を強引に恋人繋ぎにすれば勢いを失ったように黙った。
盗み見た顔はほんのり赤くて、つい胸が高鳴る。
なんなんだよ。赤くなったりならなかったりわけわかんねえ。
――……のに、嬉しくなってんだから本当。
俗に言うなんとかの弱みを、俺は生まれて初めて経験していた。
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エス(プロフ) - ノアさん» いやー!!続きが楽しみですね!一生付いてきます!これからと体は気をつけて更新ゆっくりでもいいので頑張ってください!それと続き編ありがとうございます! (2020年8月27日 20時) (レス) id: 3190ad61df (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - ミルクショコラさん» 夏休みですか!最高ですよね!!短いのは残念ですが、是非とも満喫してください^^* (2020年8月27日 18時) (レス) id: 17af415a1e (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - エスさん» そう言っていただけて嬉しいです!私もどうなるかわかりません笑 これからもお付き合いくださると嬉しいです! (2020年8月27日 18時) (レス) id: 17af415a1e (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - 東雲さん» こちらこそありがとうございます!!長らくお待たせ致しました(汗) 続編移行したので是非これからもよろしくお願いします! (2020年8月27日 18時) (レス) id: 17af415a1e (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - わかさん» 私がきっかけなんですか!?めっちゃ嬉しいですありがとうございます……!これからも頑張ります! (2020年8月27日 17時) (レス) id: 17af415a1e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ノア | 作成日時:2019年9月5日 19時