17こ ページ18
息を切らして開けたのは、昔僕らが秘密基地にして遊んでいた、小さな廃工場。
ステンドグラス風の窓からは光が漏れていて、時間の止まったココは、異世界のような、幻想的な場所となっている。
その窓から伸びた光の真下に彼女は立っていた。
その姿は、神からの祝福を受けた聖女のよう。
しかし、右手に握られた拳銃は、聖女とはかけ離れたものだった。
「Aちゃん」
ゆっくりと振り返る。
真っ白なワンピースと、同じく真っ白な肌を染め上げる赤。むせ返るような鉄の香りは、あの日デパートで感じた匂いと同じだ。
彼女は泣いていた。
そうして涙を流して、ゆっくりと、柔らかに、かなしげに、笑った。
『い、ず、く』
一文字ずつ、大切そうに文字を紡ぐものだから、僕は胸が詰まって言葉が出てこなくて。
『気づいたんでしょ？』
首を小さく縦に振る。
気づきたくなかった。それでも、気づいてしまった。
いや。
君に、気付かされた。
「わざと僕に気づかせようとしたん、だよね」
『そうだよ』
毎週水曜日に食べるハンバーグ、犯人は赤ずきんちゃんかもしれないという言葉、あの日の嗅ぎなれない香水の香り、大きな冷蔵庫。
記憶の中の君の歌。
そして、あの本___
彼女の個性をかけた、日記。
あれに触れたら思い出すように、君がしていたんだ。
『私の個性は記憶を読み、操作し、譲渡する能力と、もう一つあったんだ』
「それ、は」
『喰種』
聞きなれないその言葉は、呪いのようにその場に僕を縛り付けた。
『人以外のモノを食べてもお腹がいっぱいにならないの。食べても食べても、酷い飢餓で、理性が飛んじゃうの。それで、食べた人の量に比例して、個性が強まる』
静かに、目を伏せた。
『入り混じった個性の終着点。
これが華々しい希望の、この世界の末路よ。』
そうか。
そうだったのか。
これは、すべてを手に入れようとした欲深い僕らへの、人間への、人類への、
罰なのだろう。
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akua(プロフ) - コメントありがとうございます。ラストまで読んでいただいて嬉しいです。きっと来世で彼女は普通の人として幸せになっているはずです。 (2019年4月29日 23時) (
レス) id: 9558b5da00 (このIDを非表示/違反報告)
のえたん(プロフ) - ラストの方、何度も読んでしまいました。彼女は来世で幸せになっていて欲しいです。 (2019年4月29日 20時) (レス) id: ee02f97984 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：akua | 作成日時：2018年4月23日 22時
