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沈黙のまま食べ始めたゾムを見守っていたショッピも机に戻って自分の食事を再開した。
食べ終わってゾムの部屋を後にしたショッピの次に、鬱先生が眉を下げ心配そうな顔でゾムの前に座った。
「大丈夫、じゃなさそうやんな。ショッピくんと飯食った?」
「…食った」
「そっか、もう分かっとうと思うけど、皆ゾムさんのこと心配してんねんで。それが悪いわけやないけど言いたいことがあれば言ってほしいんよ」
「大先生いつになったら禁煙するん」
「僕から煙草抜いたら死んでまうから」
「…Aのこと」
禁煙の話と同じトーンで話始めたゾムに鬱先生はきゅっと口を閉じた。
「俺は少しでもこの国を楽しんでほしくて、Aを傷つけるやつはこの国におらんことを知ってほしかったのに、Aには届かんかった。俺のことも、誰のことも信じとらんあの目は…昔の俺と一緒や」
「…それ、ゾムさんがこの国に来た時の話?」
「おん、大先生なら分かるやろ」
自嘲気味に笑いを零し、耐えるように目を細める。
「俺も、誰も信じられんかった。お前らことも口先だけだって、知ろうともせんかった」
「でもゾムさんは僕らのこと最後には信じてくれたやんか。信じる理由があって、ゾムの意志があって、信じることを決めてくれたんやろ?」
懐かしみながら嬉しそうに言う鬱先生にゾムは何も言えなくなる。
「なぁ、ゾム。お前はどうしたいん?」
「俺は…」
「僕らがゾムの味方をすんのは、ゾムがええ子やって知っとるからやで。だからゾムが望む願いもきっと誰かのためになるって信じとるから、叶えてあげたいんや」
「自分勝手なこと言うかもしれんで」
「そこにゾムの意志があるなら話なんてなんぼでも聞いたる」
「もしかしたらこの国に不利になるかもしれんで」
「不利にならんようグルちゃんや皆と一緒に考えよか」
「俺のせいで、お前らを傷つけるかもしれんで」
「ゾムがきっかけになることはあってもお前が僕らを傷つけるつもりがないことくらい知っとるよ」
なんてことないように言うその言葉に、ゾムはきゅっと口を閉じてから想いを零した。
「俺は、Aを殺したくない。あいつを救ってやりたい。それがもしX国との戦争に繋がるなら、Aを傷つける奴全員俺が殺したる」
「ふふ、ゾムさんらしいわ。じゃ、あの戦争大好きおじさんの説得の準備せなあかんね」
くすりと笑みを零す鬱先生に、若草色の瞳に光が差した。
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カラバコの中の子犬(プロフ) - 面白すぎて一気読みしました…!言葉の使い方や文章がとても品があり、文も読みやすくとても素晴らしい作品です…!!感動しました!!素敵な小説をありがとうございます!更新をお待ちしております! (2020年12月30日 14時) (レス) id: e1ec4a729c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:乃鴉 | 作成日時:2020年12月23日 19時