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いつもはゾムの強さや明るい性格に助けられてきたショッピはため息をついてゾムに声をかけた。
「ちょっと待っとってください。俺も自分の持ってくるんで」
「…ショッピくん?」
「最近ただでさえ任務ですれ違って一緒に飯食えなかったやないですか。たまにはいいでしょ?」
わざとこてん、と小首を傾げれば後輩に甘いゾムはきゅっと唇を引き結んで何も言わなかった。
ほどなくして自分の食事も持ってきたショッピが机にトレイを置き、マイペースに先に食べ始める。
「それにしても、まさかA様が観光客やなんて思いもしませんでした。ゾムさんたちと助けに行った時だって拉致られた女性のことを一番に心配しとったから、裏切るなんて」
「それはちゃうで、ショッピくん」
「え?」
「あいつは裏切ってなんかない。最初から、俺らを信じてへんかったんや」
やっと返事をしてもらえたかと思えば、どういう意味だと眉を顰めるショッピにゾムは淡々と答える。
「あいつはずっと自分しか信じとらんかった。いや、自分ですら信じとらんかったかもしらん」
「どうしてそう思うんですか」
「ショッピくん、あいつが一度でも助けてなんて言ったのを聞いたことあるか?」
「…俺が知る限りは、ないっすね」
「俺もやで。あいつは自分が助けてもらえる立場にないと思っとる。そんな価値がないんやと、だから誰も信じないし、価値のない自分も信じられへん」
言葉が出ないショッピに、ゾムは続ける。
「俺は、あの目を知っとる」
光のない赤い瞳がゾムの頭の中で過る。
「あれは、誰も信じない、全てを諦めた目や」
「…ゾムさんはどうするんすか」
「それをずっと考えとる。どうしたらええのか、俺はどうしたいんか。あいつが本当に殺されることを望むんなら、俺はそれを叶えてやれるはずなのに」
じっと自分の手を見つめるゾムに、ショッピは立ち上がるとゾムのために持ってきたサンドイッチをその手に置いて持たせた。
見上げる若草色を力強く藤紫が射抜く。
「俺は、俺も皆もゾムさんの味方っすから。それだけは忘れんといてください」
滅多に見ないショッピの強い語気にゾムはサンドイッチに視線を落とすことしかできなかった。
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カラバコの中の子犬(プロフ) - 面白すぎて一気読みしました…!言葉の使い方や文章がとても品があり、文も読みやすくとても素晴らしい作品です…!!感動しました!!素敵な小説をありがとうございます!更新をお待ちしております! (2020年12月30日 14時) (レス) id: e1ec4a729c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:乃鴉 | 作成日時:2020年12月23日 19時