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一旦建前上は捕虜という形で部屋での待機を命じられたAは大人しくトントンに着いて部屋に戻った。
部屋に入る前に、トントンを見上げるAには初めて憂いが見えたような気がした。
「トントン様、あの…」
「…なんや」
「どうかトリシアを罰さないでいただけますか。あの子は何も知りません」
「それをどう判断するかはうちの総統が決めることやから」
「でしたら、これをトリシアにお渡しいただけませんか」
そっと懐から取り出した手紙を、トントンは受け取るか迷った。
「…中身を見ても?」
「構いません。それで渡していただけるのなら」
無粋だと分かっていても渡さない理由をどうにか作りたくなかったことを、トントンは見ない振りをして手紙を受け取った。
そっと封を開けて内容を読み、顔を顰めた。
「これを、渡すんか」
「はい」
「…残酷やなぁ、ほんま」
乾いた笑いを零し、トントンはその手紙をAに返すことはしなかった。
Aが部屋に入るところまで見送ったトントンはその足でトリシアがいる場所へ向かった。
Aが観光客だったことで建前上拘束せざるを得なかったトリシアはメイド寮の控室に待機させられていた。
トントンがドアを開ければ慌てたトリシアがトントンに駆け寄り、Aの処遇を問う。
何も言えなかったトントンは、ただ黙ってAからの手紙を渡した。
受け取ったトリシアも何かを感じていたのだろう、微かに震える指で手紙を開けた。
「…A様、どうしてっ…!」
ぼろぼろと大粒の涙を零しながら蹲り、手紙を胸に抱えるトリシアにトントンは内心同じ気持ちでただ傍にいた。
手紙の一枚目は、解雇通知書。
Aの侍女を強制的に辞めさせ、ご丁寧に王族の判が押されておりそれが正式な書類だと示していた。
これでトリシアはもうAにとって無関係な人間となったのだ。
手紙はもう一つあった。
短い文で、一文だけ。
“これからもあなたの幸せを願うことを許してください”
嗚咽を漏らして泣き続けるトリシアを慰める言葉など、トントンは知らなかった。
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カラバコの中の子犬(プロフ) - 面白すぎて一気読みしました…!言葉の使い方や文章がとても品があり、文も読みやすくとても素晴らしい作品です…!!感動しました!!素敵な小説をありがとうございます!更新をお待ちしております! (2020年12月30日 14時) (レス) id: e1ec4a729c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:乃鴉 | 作成日時:2020年12月23日 19時