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「このままX国に帰れば私の言葉など聞かずに私はあの外交官を裏切った裏切り者として処刑され、家族もひどい目に遭い、それを口実に宣戦布告されるでしょう。ですが、ゾム様に殺されたとなれば、勅命の一つを実行しょうとしたと思ってくれるはずです」
「…A殿、何を言っているか分かっているのか」
「もちろんです。私の命一つで救えるものがあるなら、王族の務めとしてそれをしないのは務めの放棄に他なりませんから」
グルッペンに振り返り、ゾムの前で淡々と自分の命を捨て駒とするAにゾムは思わずその細い腕を掴んで振り返らせた。
その表情は悲しく歪められ、理不尽に耐えられないかのように怒気と混乱を孕んでいた。
「…なんでや、何でそうなるんや。A、俺がこの前言ったこと忘れたんか」
“「これが幸せって言うんやろなぁ」”
本当に幸せそうに笑っていたあの時の表情を思い出したAは、ぴくりと肩を揺らしながらも努めてそれを表に出さないように出会った時と同じように、綺麗に笑った。
それが表面上だけでの笑顔であることを、ゾムはもう知っている。
「忘れてなどいません」
「なら、なんで」
「ゾム様」
「…やめろや、それ。また様なんて付けて」
「ゾム様…ごめんなさい」
謝るAに、ゾムは目を見開き、絶望した。
ゾムの言葉を、気持ちを分かっていてなお、Aはそれを拒絶したのだと理解してしまった。
軍会議の時はAを殺せると言ったゾムだが、Aが自分や仲間たちを殺す気がないことを分かっていたし、ただX国に言われてW国に来ただけだとこの場にいるグルッペンもトントンも理解していた。
W国や我々軍を害する意思などないのに、殺されることを望むAにゾムの思考は停止した。
目の前のAの言葉を信じたくなくて、Aを殺したくなくて、ただ力なく掴んでいた腕を離すことしかできなかった。
何も言わなくなったゾムをトントンが無言で案じ、グルッペンは話を進めるべく口を開いた。
「…A殿、申し訳ないが処遇については保留とさせていただきたい」
「それは私を殺していただける案もご検討いただけるという意味で捉えてもいいですか」
「こちらとしては無用な殺生は控えたいのだが」
「無用でなければ、殺していただけると」
「そういうことにしてもらいたい」
「…分かりました」
グルッペンの言葉にAは納得した風を装い、今は身を引いたことをグルッペンも察していた。
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カラバコの中の子犬(プロフ) - 面白すぎて一気読みしました…!言葉の使い方や文章がとても品があり、文も読みやすくとても素晴らしい作品です…!!感動しました!!素敵な小説をありがとうございます!更新をお待ちしております! (2020年12月30日 14時) (レス) id: e1ec4a729c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:乃鴉 | 作成日時:2020年12月23日 19時