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エーミールは医務室から自室への帰り道、不意に現れた人物に驚くことなくぽつりと呟くようにその名前を零した。
「…ゾムさん」
「Aの様子、どうやった」
「ええ、体調は順調に回復されてます。それに…明日の尋問に備え、早く寝て万全にするとのことでした」
「明日のこと言ったんか？」
「いえ、ただ私の雰囲気でそう察したようです」
「そっか」
「グルッペンのことやから、そこまで酷いことはせんと思うけど…」
重く呟くエーミールは苦しいものを吐き出すように息をついた。
「分からんけど、なんか、嫌な予感がすんねん…」
ぎゅっと両手を握りしめ漠然とした不安を感じるエーミールに、何を言えばいいか分からずゾムは閉口し、目を細めて宙を睨んだ。
そして尋問の日、Aは服を着替え総統執務室の前でグルッペンと対面していた。
「この度は大変ご迷惑をおかけしたことをここに謝罪させていただきます」
深く頭を下げるAに、グルッペンはちらりと横に控えるトントンとゾムを見てから口を開いた。
「毒の件であればA殿に非はないと考えている」
「ありがとうございます」
「それよりも、こちらが聞きたいのはこの紙の件だ」
グルッペンの言葉によりトントンがAに例の命令書を差し出した。
それを受け取ったAは真っすぐにグルッペンを見つめた。
「このことについて、何も弁明はございません」
「…ならば、A殿は最初から我々に危害を加えるためにこの国にきたと？」
「そうなります」
「スパイとして、誰かを殺すつもりだったと」
「否定はいたしません」
きっぱりとしたAの返答だが、その赤い瞳の中に光は一切ないのをゾムだけが気づいていた。
「今後も我々の誰かを殺すつもりなのか」
「…いえ、私にその技量はありません」
「なら今後はどうするつもりだ」
「一つ、ご提案があります」
音を立てずに立ち上がったAはそのまま真っすぐにゾムの前に立ち見上げた。
光のない瞳がゾムを捉えた瞬間、ゾムはざわりと嫌な予感に鳥肌が立つ。
そんなゾムに構わず、Aはうっすらと笑みを浮かべながら提案を口にした。
「我々軍“味方最大の脅威”ゾム様、どうか私を殺してくださいませんか」
その提案にゾムは頭が真っ白になり絶句し、グルッペンとトントンも同じように目を見開いた。
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カラバコの中の子犬(プロフ) - 面白すぎて一気読みしました…！言葉の使い方や文章がとても品があり、文も読みやすくとても素晴らしい作品です…！！感動しました！！素敵な小説をありがとうございます！更新をお待ちしております！ (2020年12月30日 14時) (
レス) id: e1ec4a729c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：乃鴉 | 作成日時：2020年12月23日 19時
