9. ページ9
Aの容体が安定するまでの三日間。
Aは走馬灯のように昔の夢を見ていた。
それが夢であると、理解していた。
幼い自分が安全な場所で守られながら過ごしている姿を今の自分が俯瞰するように遠くから見ている。
小さなAは母親の膝の上で、未来のAを形作る芯を教えられていた。
「いいですか、A。あなたは末端といえど王族に連なる者、王族というのは民の上に立ち民を守り民を正しく導く義務があります」
「まもり、みちびく」
「そうです。上に立つものは相応の責任があるわ。自らを律し、民を助け、王族としての自覚を持つの」
「おうぞくとしての、じかく、ですか」
「…ええ。今のAに難しいことは分かっているの。それでも、少しでもあなたの心を救えることができるなら」
そう言って悲しそうに微笑む母親の顔が忘れられなかった。
それから場面は何度も転換し、事を追うごとにAの心を麻痺させていく。
初めて叩かれたのは国王に呼ばれて王宮に向かった時にたまたますれ違った皇后にだった。
訳も分からず、ただ周りの誰も止めることもなくひそひそと嘲笑が聞こえ初めて自分が置かれている状況に気づいた。
王宮にいる誰もが母親を貶し、その娘であるからとAにも謂れのない罵倒を浴びせ、その度に声を殺し唇を噛む母親の姿に憤怒と決意が生まれた。
“自らを律し、民を助け、王族としての自覚を持つ”
何故このような扱いを受けてまでも王族としての自覚を持たねばならないのかと何度も疑問だったが、頑なに母親の「己を律しなさい」という言葉にぐっと感情を堪えた。
今まで屋敷と王宮しか知らなかったAは何度も屋敷を抜け出し隠れて民と接した。
あまり裕福な国とは言い難く、民が何を欲しているか直に聞いたAは初めて母親の言葉の意味を理解したのだ。
民の声を聞き、助けを求める人々の声を聞いた時、Aは自身が置かれている状況など全てを置いて民を守らねばという意識が芽生えた。
民がいなければ国は成り立たず、そしてその国を形作っているのは王族であり、民が最後に助けを求めるのも王族なのだ。
だからこそ、王族は常に民の声に耳を傾けねばならない。
だからこそ、王族は国のため民のために正しい道を歩み、示し、導かなければならない。
それと同時にAはいかに自分が屋敷の家族皆に守られてきたかを知ってしまった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 108人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
カラバコの中の子犬(プロフ) - 面白すぎて一気読みしました…！言葉の使い方や文章がとても品があり、文も読みやすくとても素晴らしい作品です…！！感動しました！！素敵な小説をありがとうございます！更新をお待ちしております！ (2020年12月30日 14時) (
レス) id: e1ec4a729c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：乃鴉 | 作成日時：2020年12月23日 19時
