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「それは名案」
「ふふ、楽しそう」
ショッピとチーノの軽口に、Aは思わずくすりと笑みを零した。
食堂に残るというショッピとチーノに手を振ってAとゾムは並んで食堂を後にした。
暫く無言が客室の前まで続き、Aが送ってくれたことにお礼を言って頭を下げるとゾムはまたAの耳で煌めく赤い雫に触れる。
「これ、お守りやから持っといてや」
「お守り、ですか」
「おん、いつでも助けたるよ」
「どうしてそこまで…私は他国の人間ですよ…？」
「んー…」
不安げに揺れるAの瞳を捉えたゾムはAの耳元から手を離し、少しだけ考えるような素振りを見せた。
「確かに、Aの全部を今すぐ信じられるかって言われたら難しいかもしれんけど、でもAを知ることはできるやろ？」
「私を…？知って、ゾムさんに何かいいことがあるんですか…？」
「俺がAを信じる言うたことが正しいか間違っていたか、Aを知れば分かると思うねん。他国の使者としてこの国に来たんは分かる。だから、A自身を知ってその答えを知りたいんや」
ゾムの言葉に、Aは開きかけた口を閉口して目を伏せた。
自身は王族としても地位は低く、他国にとっても人質としての価値すらない、そう答えようとしたが初日の鬱先生とオスマンに言われたことを思い出す。
気を遣ってくれた鬱先生とオスマンの思いを無下にできずに、かと言ってゾムに返せる答えを持っていないAは未だ揺れる深紅の瞳でただそっとゾムを見上げた。
「A、言うたやろ。受け入れとるって」
「…ゾムさん」
「Aのことも、X国のことも、多分悪いようにはせんはずやから」
少しでも安心させようと少しだけ柔らかく言えば、Aはただ一言また客室まで送ってくれたことをお礼を言って今度こそ部屋に入った。
部屋に入りドアを閉めることでゾムが視界から消えた瞬間、くしゃりと眉を下げて顔を歪めながらベッドにに近づき枕の下から一通の封筒を手に取る。
「…それでも、私は」
既に開いている封筒を震える手で開けて、手紙を広げる。
何度読み返しても変わらない文章にとうとう苦しそうに大きく息を吐いてそのままベッドに倒れ込んだ。
「私は私が正しいと思うことをする…それだけが私のできる全てだから」
言い聞かせるように、寝転びながらまた手紙を封筒に戻してベッドの下に入れる。
現実逃避をするように目を閉じれば漂ってくる眠気に抗わずに意識を落とした。
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作者名：乃鴉 | 作成日時：2020年6月24日 19時
