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ゾムの腕の中に閉じ込められた形となったAが慌てて少しだけ抵抗しても、ゾムはAを離さなかった。
ゾム自身もどうして抱きしめたのか分かっていなかったが、それでも信用しないでなどと寂しそうに言われて言葉にならない感情に突き動かされた結果だった。
受け入れていると言ったのに、まるで突き放されたようで我慢ならなかった。
「…嘘やないから」
「え？」
「受け入れとるって、嘘やないから。それだけは忘れんといてや」
国のために来ているAが抱えるものなどただの幹部であるゾムには何も分からないが、それでも多少なりともAの人となりを知って伝えたいと思った。
ゾムの言葉に、Aは微かに息を呑んで、だけど小さくこくりと頷いた。
少なくとも言葉を伝えられたことに満足したゾムはパッと腕を離してAに部屋に入るように促し、Aも改めて礼を言って今度こそ客室のドアは閉められた。
それから、Aとゾムの関係は少しだけ変わった。
時間が許す限りゾムはAのそばにいるようになった。
時には仲間と一緒にご飯を食べるように誘導したり。
時には一緒にエーミールの書庫に行ってエーミールを揶揄ったり。
今日はオスマンに誘われてエーミールとお茶会に参加していた。
「…いい茶葉ですね」
香る紅茶にそっと口をつけてAが言葉を漏らせば、その感嘆にエーミールが嬉しそうに頬を緩めた。
「王族の方には少し物足りないかもと思いましたが、お口に合ったようでよかったです」
「確かに高級品は金額に釣り合うものが多いですが、時と場合によっては金額と満足度が比例しないこともありますよ。例え高級品でなくとも、エーミール様が淹れられた紅茶はどれも美味しく感じると思います」
「きょ、恐縮です…お世辞でも嬉しいですよ」
「いえ、本当にそう思ったんです。エーミール様が淹れられる紅茶は飲む人を考られているのが分かりますから。もしよろしければ今度はエーミール様のおすすめの飲み方を教えていただけますか」
「ええ、もちろんです！この紅茶も他に美味しい飲み方がありますから、ぜひ今度振舞わせてください」
「ありがとうございます。楽しみです」
嬉しそうに微笑み合う二人の傍で、オスマンは無表情にずずっと紅茶を啜るゾムを横目にマカロンを一つ食べてその甘さと美味しさに舌鼓をうった。
「…で、ゾムは何を企んどるん？」
「どういう意味や」
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作者名：乃鴉 | 作成日時：2020年6月24日 19時
