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「言うようになったやんけ、A…」
呆れたようにじとりとした視線を向けるゾムに、もう初対面のようにAを忌避する空気はない。
言ってしまえば仲間に対するそれと少し似た雰囲気を感じて、Aは思わず笑みを零した。
「よろしくお願いします、ゾム様」
「おん、ちゃんと言うてや。A」
何故か周りはそっちのけで通じ合うような二人の様子に、一旦その場は解散となった。
その日から、ゾムが丸一日任務や訓練でいない日を除き暫くはAの護衛ということで幹部寮以外はゾムや他の幹部が誰かしらつくようになった。
それでも、街まで行くのは基本的にゾムだけ。
元々人当たりの良いAは幹部やグルッペン、一部一般兵たちとコミュニケーションをとりながらも表面上王族の仮面を剥がすことはなく、街に行ったときのみ少しはしゃぐAが見れるということにゾムは気が付いていた。
本来の王族であれば、Aのように国民とここまで遊ぶ機会などそうないだろう。
子供の扱いも上手い様子に、今日は"蝶の園"に遊びに来ていたゾムはぽつぽつと泡のように浮かぶ疑問を持て余していた。
「ゾム様！」
呼ばれてふと意識を現実に戻せば、Aが子供たちに囲まれながら大きく手を振っているのが見えた。
なんとなしに近づいてみれば、子供たちから一枚の大きな画用紙をぐいっと押し付けられる。
「ちょ、見るから」
強引に押し付けられてぐしゃりと曲がりそうだった画用紙を慌てて取り上げて見てみれば。
"ゾムお兄ちゃん、Aお姉ちゃん いつも遊んでくれてありがとう"
拙い字と、二人の似顔絵を描かれた画用紙は鮮やかな色で飾られていた。
確かにAと一緒にいるようになってからこの場所に来ることが多くなったと目の奥が微かに熱を孕んで思わず頬が緩む。
しゃがみ込んで子供たちと目線を合わせ、満面の笑みでゾムは答えた。
「こっちこそ、いつも遊んでくれてありがとう、やで。今度はシッマたちも描いてあげてくれへん？あいつらも絶対に喜ぶから」
嬉しそうに一人一人子供たちの頭を撫でてやれば、皆歓声を上げてゾムやAに抱き着いてくる。
今度はコネシマたちの絵も描くと大声で答えてくれた子供たちにゾムはまた満面の笑みを零した。
夕方になり、2人が基地に戻る中ゾムは徐に口を開いた。
「"蝶の園"のこと、聞いたやろ」
「…ええ、まぁ。戦争で親を失った子供たちの、孤児園だとか」
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作者名：乃鴉 | 作成日時：2020年6月24日 19時
