最初で最後の日 ページ1
真っ暗な山道を母と下っていた。
周りは闇しかなくて、月明かりもなくて、見えるのは母の白い手だけで、顔はよくわからない。私はそれが怖くて怖くて母の手を離してなるものかと必死に掴んだ。
おかあさん、こわいよ。
大丈夫だから歩きなさい。
足が痛いよ。歩けないよ。
我慢をし。後もう少しだから。
べそをかきはじめた私を最終的には母が抱き上げ走りこむ。母の背中は汗をかいていて生暖かくて湿っていた。私は怖くて痛くて仕方なかった。
何よりもその時の母の顔が思い出せなかったのが恐ろしかった。
森は気持ち悪くざわついていたし、何処かでキジが鳴いていた。
泣かなければ、撃たれなかったろうに。
おかあさん。こわい。
おかあさん。おかあさん。
おかあ、さん？
どれほど山を降りたのだろう。いつになったら朝はやってくるのだろう。
母は徐々に力を失ったように、速度をおとし、私を抱える力もなくし膝から崩れ落ちた。私は脇の茂みのなかにポーンと放り投げられる。
茂みの中に落ちた私は痛い痛いと泣いて腹を抱えてうずくまる母の側に近づく。
ね、おかあさん。
おかあさん、おなか痛いの？
母の背中を撫でるとぐちゃりと粘っこい音がした。こんなに汗ってベタベタしてた？と不思議に思った。
ひっくり返した手のひらを見つめた。
手は黒くて生臭くて、泥がついたみたいで。
何処かで嗅いだことのある匂い、何処だっけ、何処だっけ、あ、これ、何度も嗅いだことある。
じゃあ、あ、ああ、あ、これ、これって。
おかあさん、けがしてるの？
お前、先に行って。いいから行きなさい。
やだよ、お母さんと一緒がいい！
行きなさい！！お願い、いい子だからA___！
これが、私の名前を最初で最後に呼んだ日だったかも知れない。まあ、覚えてないけれど。
そう叫んだ瞬間、母はビクッと一瞬痙攣したあとそれっきり動かなくなった。母の腹から抑えきれなくなった液体が流れ出ている。
重厚な雲から月が出て辺りを明るく照らす。
母の背中に突き刺さった銀色に鈍く光る刀。
私は母だったものを見つめて思考を止めた。幼いなりにこの状況を理解しようと頑張ったのだ。
その時、肩を掴まれる。見上げると母の男だった野盗がいた。
男の着物は斜めに勢いよく黒いシミがついている。恐らくこれは母の______。
男は母の亡骸から刀を抜く。
男は笑って、
そして私に肩に置いた手と反対の腕を、
刀を私に振りかざして________。
そこからの記憶は、ない。
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苺たると(プロフ) - 涙腺ゆるゆるにして見てました…。こういうネタ大好きなので嬉しいです！更新楽しみにしてます！ (2020年6月29日 21時) (
レス) id: 4ddd192ae6 (このIDを非表示/違反報告)
かまぼこうどん(プロフ) - MadHatterさん» ありがとうございます！この小説を楽しみにしていただけたら幸いです！無理をせずゆっくり書いていきたいと思います！ (2018年3月23日 18時) (レス) id: 4829cee081 (このIDを非表示/違反報告)
MadHatter(プロフ) - ボロボロ泣きながら拝読させて頂きました。続き楽しみにしております。無理だけはなさらないでください。 (2018年3月23日 2時) (レス) id: 17134202e7 (このIDを非表示/違反報告)
かまぼこうどん(プロフ) - ざわさん» ありがとうございます。３月以降から本格的に更新を再開したいと思います。今回は生存報告としての今の現状とお話をあげさせて頂きました。引き続き応援よろしくお願いします。 (2018年2月12日 23時) (レス) id: 4829cee081 (このIDを非表示/違反報告)
ざわ(プロフ) - ドキドキしながら一気読みしてしまいました！ この作品大好きです！素敵な小説をありがとうございます。受験はもうラストスパートでしょうか？お勉強頑張ってください！このコメントが届いているかどうかわかりませんが、心から応援しています...! (2018年2月6日 23時) (レス) id: c9576dec0e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：かまぼこうどん | 作成日時：2017年7月3日 22時
