57 ページ8
.
二階堂先生と別れた後、電車に乗って自分の家に着いてもまだ先生の声が頭から離れなかった。
俺は、先生達のために何が出来るんだろう。
きっと今まで、知らないうちにA先生を傷付けるようなことを言っていたかもしれない。
悪意がないはずの言葉が、彼女の心を抉っていたかもしれない。
想像すればするほど、俺がしたって意味のない後悔ばかりが押し寄せてくる。
辛いのは、先生なのに。
.
土曜日のお昼頃、突然吉沢くんから送られてきたメッセージにびっくりした。
今日会えますか、ってどうしたんだろ。
何か悩み事?
もしそうなら外で話するのもなぁ…
迷った結果、私の家に招き入れることにした。
休日で人通りの多い駅の前で吉沢くんが出てくるのを待つ。
五分ほどすると、大勢の中でも一際目立つ彼を見つけて声をかけた。
「ごめん、待たせて」
『ううん。全然』
並んで歩く距離が、いつもよりほんの少しだけ遠い気がした。
.
『で、どうしたの、急に?』
吉沢くんを家に上げた後、もてなしもちゃんとしない内にそう聞いた。
只事ではない雰囲気の彼には、そんなことをしている場合ではないと思ったから。
「…先生の話」
『…私の話?』
予想していた内容とは違って思わず聞き返した。
彼は頷いた後、その大きな目でまっすぐに見つめてくる。
「先生が昔、ちょっとだけ俺に話してくれた…倫也さんのこと」
『…話したことあったっけ、吉沢くんに』
触れてほしくない話題だった。
吉沢くんにも、他の人にも。
指の先が冷たくなって、震え始める。
吉沢くんに見えないように机の下で固く拳を握った。
「全部聞いたよ、二階堂先生から」
『…ふみ、から?』
「うん」
はっきりと肯定した声に、強張っていた全身の力が緩んだ。
なんで会ったの?
なんでふみは話したの?
ふみは…
『…私のこと、なんて言ってた…?』
自分から離れていったのに、嫌われていたとしてもしょうがないのに。
嫌われたくなかった。
ただ、その一心で。
「心配だって、言ってた」
172人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
那奈(プロフ) - 続きがめっちゃ気になる!!大変だと思いますが更新頑張ってください!! (2020年4月16日 15時) (レス) id: 4a3fdbf345 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:麦 | 作成日時:2020年4月7日 18時