子供のまま、痛いまま２【吉沢亮】 (ページ6)

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あの同窓会から数ヶ月が経って、季節は春になった。

それまでの間に吉沢くんとは何度か会って食事をしたりしている。
でもなんとなく、ほんの少しだけ距離感があるように思っていた。

…何なんだろ、この気持ち。

「＿＿先生、立花先生？」

『…ん？』

「ここの問題教えてください！」

ボーッとしてた。
生徒の目の前なのに。

ヒントをあげて、その子が問題を解いている間に落ち着こうと深呼吸する。

閃いたとばかりにキラキラする目でこっちを見てきた生徒が面白くて、良かったねと笑った。

…私はきっと、教師を辞められない。

こんな荒んだ気持ちになってから五年近く経つのに、私はずっと教師として生徒達に勉強を教え続けている。
一時期は辞めようと思った。
無理に続ける意味なんて、もう無かったから。

…でも。
もう私にはこれしか残っていないんだ。

この、仕事しか。

.

「先生、隈出来てない？」

『え、嘘』

慌てて鞄に入っていた鏡で自分の顔を確認する。

コンシーラーで隠したはずなんだけどな…

もっと濃く塗っておけば良かった、と後悔した。
考えてみれば、最近寝不足かもしれない。
完全に仕事に身を捧げているし。

…社畜だな。

自覚すると思わず苦い顔になる。

「寝不足とかダメだよ。昔みたいに倒れるから」

『そんなこともあったね…』

「いや、俺あの時めっちゃ焦ったからね。階段でだよ？階段で意識無くなるとか怖すぎる」

前に座っているのは吉沢くん。
昔私が体調を崩して倒れたときのことを思い出したらしくて、目を見開いて熱弁している。

日曜日の今日は彼に誘われて、喫茶店でコーヒーを飲んでいた。
どうやら喫茶店巡りが好きらしくて、連れていってくれるお店はどこも美味しい。

なんて優雅な休日だろう。
彼といると何をしてもそう思う。

「あ、そういえばさ。俺無事就職出来たよ」

『おめでとう！え、もうそんな歳になったんだね…』

突然の報告に月日の流れを感じた。

でも私もそれだけ年を取ってるんだよな。
もうアラサーだよ？

「俺たちを担任してた時の先生と同じくらいの年齢？」

『うん。なんか怖いよ、ここまで来ると』

「先生ってさ、今も二階堂先生と仲良い？」

『…そういえば、最近あんまり話してないかな』

咄嗟に嘘をついていた。
自分でも意識しない内に顔に笑顔を貼り付けている。

…私今どんな顔してる？

彼の前では全て見透かされているような気がしてならなかった。