子供のまま、痛いまま【吉沢亮】 (ページ47)

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長かったはずの夏休みが終わった。
暑さが和らいできたある土曜日、私は学校とは逆方向に向かう電車から降りて待ち合わせ場所に歩いていた。

「あ、先生こっちー」

『受験生が何してるんだか…』

「息抜きだから。今日はそういうこと言うの禁止」

そんな感じで例のデートは始まった。
最近休日に遊びに行く機会は少なかったから、実は結構楽しみだった。相手は別として。

カフェで向かい合って座っていた時、亮は私の服を見て言った。

「先生の服、なんかいつもと違うね」

『職場じゃないからさ。ちょっとは可愛くしたいんだよね』

「ふーん」

こいつ興味無いな…
メニューを見ながら発された雑な返事を聞いてそう思う。

「何か行きたいとことかある？なんにも計画してなかったんだけど」

『あー…見たい映画あるな』

「じゃあ行こ！」

『今すぐ！？ちょっと、まだコーヒー飲み終わってな…待て亮！』

さっさと立ち上がって行こうとする亮に置いていかれそうになって、慌てて荷物を持った。

全く先生感の無い自分に呆れてくる。
めちゃくちゃ振り回されてる…

でも何だかんだ彼は待っててくれているし、行きたいと言えば連れていってくれるし、自然に歩道側を歩かせてくれるし。
今日の一日で知らなかった彼の一面を知れたような気がして、嬉しい発見だった。

.

『何で亮には彼女がいないんだろ』

「…え？」

『いや、だって今日で分かったけどさ。結構いい男だよ、亮？』

「…やっと分かったの？遅ぇなーもう」

帰りの駅に向かう道で、突然先生の口からそんな言葉が溢れた。
何だか恥ずかしくなって自惚れた言葉を並べて誤魔化す。

「ていうか何で彼女いないって知ってるの？」

『亮のそういう話とか全然聞かないからね、いないのかなーと思って言ってみた。そしたらいなかった』

「あえて作ってないだけだから」

『本気になればいつでも落とせるって？』

「まぁ、落とせない人もいるけどね」

『ん？意味深な…』

「もう良いでしょ？俺恋バナとかするキャラじゃないんだけど」

『えー？楽しいのに』

今の俺には、ここまでしか言う勇気がない。
これ以上踏み込むことはできない。
まさか、今隣に歩いている人が好きなんて、言える訳ない。

『＿＿じゃあ私の話していい？』

「先生の話？」

『うん。昔の、付き合ってた人の話』