子供のまま、痛いまま【吉沢亮】 (ページ45)

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「あのさ、先生」

『ん？』

「一年前の約束、覚えてる？」

『…お礼、ってやつ？』

「そう」

約束と言われれば、ほとんど忘れかけていたけど思い付くのはあれしか無かった。

去年私が倒れたとき、亮が保健室に運んでくれたお礼…とかなんとか。

『もうあれ有効期限切れてるんじゃないの？』

「切れてないから。覚えてるんでしょ？」

『そうだけど…お礼って何するの？』

「デート」

『ん？』

「先生、俺とデートして」

…デート？
いやいや何言い出すんだこの子は。

『教師と生徒がデートなんて、思いっきりアウトだよ』

「えー、じゃあ遊びに行こう？」

『一緒でしょ』

「友達として、は？」

『ダメダメ』

「お礼って言い出したの先生だからね！」

うわ、そう言われると弱い。

急に黙った私の様子に、亮はニヤリと笑った。

「ね？先生。デートしよ？」

『……はい』

手のひらで転がされている感じが否めない。
隣のやつはしてやったとばかりに笑っている。

『いつの間にそんなわがままになったの』

「さあ？」

『はいはい、楽しそうで何よりでーす』

私何してるんだろ…もうどうでもいいや。

結局こうなる自分に呆れてしまう。

「あ、今すぐじゃ無いからね？」

『いつするつもりで？』

「夏休み終わった後ぐらい」

『その時期、受験勉強真っ最中だよ…』

「息抜き、みたいな？」

なんか鼻歌歌いだしたし。結構上手いし。

そうやって歩いていると駅が見えてきて、人通りも増えていた。

「先生どっち方面？」

『あっち』

「お、一緒」

同じ電車に乗り込んで、空いていた席に並んで座る。
ふと顔を上げると少し遠くに座っている女子高生が亮を見ていた。

見てるこっちが面白くなってしまって、その子に気付かれないように笑った。

「…何？気持ち悪いよ」

『うるさいよ？』

ガタンゴトンと車内が揺れて、窓の外の景色がどんどん流れていく。

「…綺麗だね。満月」

『そうだね』

じっと見入っていると、最寄り駅まで着いていた。
慌てて鞄を持って立ち上がる。

『私ここだから。気を付けて帰ってね』

「うん。先生もね」

電車から降りると直ぐに扉が閉まる。
窓越しに手を振り合って、電車が見えなくなってから改札を出た。

「…A？」

『え、』

駅から出て少しの歩道橋で声をかけられて振り返る。
後ろにあったのは、随分懐かしい笑顔だった。