子供のまま、痛いまま【吉沢亮】 (ページ43)

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吉沢side

ピピーッ！

「勝った…？」

「「…よっしゃーー！」」

最後の大会が終わった。
何度見ても、自分達のチームの方が数字が大きい。
走り回って汗だくの体はそのままに、周りにいた仲間と抱きしめ合う。

最後はちゃんと相手に礼をして、全員で先生のいる方へ駆け出す。

『よかった…本当に、よく頑張ったね』

「わ、なんで一番最初に先生が泣くの？」

笑っていれば、どこからか取り出したタオルを渡された。

『お疲れ様、亮』

そうやって一人一人に渡して、涙目のまま満足そうに笑った。

本当に終わったんだ。

そんな実感が改めて湧いてくる。
肩にタオルを掛けた隆が、俺の顔を見て呟いた。

「なんか寂しいね」

「…うん」

勝ったのにこんなに静かなんて、何だか不思議な感じがする。
それほど引退は辛かった。

『ほら、そんな顔しないの。勝ったんだから今日は打ち上げしよう！』

.

『かんぱーい』

コツンと自分からグラスを当てて、三年全員と話をして回る。
今は最後の二人のテーブルにいるけれど、飲んでいるのは生ビール。

「先生、飲んじゃって大丈夫なの？」

『いや、最初は私もジュースにしてたんだけど…やっぱり我慢できないよね』

隆からの咎めの言葉が刺さる。
…これは本当にダメだと思うけど、隆と亮の前ならギリギリセーフ？

自己解決して、ジョッキに口をつけた。

「ってか、ずっと気になってたんだけどさ」

『ん？』

「先生ってなんで部活のときだけ呼び捨てで、普段は名字呼びなの？」

「あー僕も思ってた」

『…うーん、気にしたこと無かったな』

いつの間にか無意識で使い分けていたみたいだ。
なんだろう…癖？
部活始まったらスイッチ入る、みたいな？

『分かんない。気分？』

「「なにそれ」」

『シンクロしないで』

楽しそうな表情を浮かべる二人を見て、こっちまで笑顔になる。

だって引退前に勝てたんだもんな。

『…いや、でも優勝できたのは本当に凄いよ』

言いながらジョッキを傾ける。
すると亮が首を傾げた。

「先生は違ったの？」

『うん。最初から強いところと当たっちゃって。まぁそれも言い訳なんだけどね』

「だから僕たちが勝ったのが嬉しいんだね…」

『そりゃあもちろん。自分のときは最後に限ってなかなか上手くいかないもんだなー、って思ってたけど、やっぱり勝ったら嬉しいからね』