子供のまま、痛いまま【吉沢亮】 (ページ42)

今日:19 hit、昨日:9 hit、合計:96,649 hit

41 ページ42

修学旅行が終わってから数日後。

『もうすぐ中間テストです。全員、ちゃんと勉強するように！』

「早すぎ！」
「嫌だー…」

『今受験生なんだからね！ちゃんと頑張ってください』

騒がしい中チャイムが鳴って強制解散させた。

来月には期末テストと部活の三年最後の大会があって、今から気が重い。
それより、早くテスト作らないと。

「A先生」

『…吉沢くん』

声で分かった。
廊下に二人分の影が落ちる。

「テスト前は楽だね、部活なくなるし」

『吉沢くんは勉強が出来るからでしょ』

「まぁ、…俺は部活あるのも好きだけど」

『それは珍しいね』

そう言った後、ちらっと見た横顔が少し悲しそうで驚く。

え、私何か悪いこと言ったかな…？

『…大丈夫？』

「え？何でもないよ」

『なら良いんだけど…』

…どうしよう。

気まずい空気が流れて話しかけにくくなる。
無言のまま歩いていると職員室の前まで着いてしまって、彼は立ち止まった。

「じゃあね」

『…うん』

顔はちょうど影になっていて見えなかった。
怒っているわけでもない普通の声色。

でも少し緊張していた私は、頷くしか出来なかった。

.

気まずくなったのはあの時だけで、次の日も、そのまた次の日もいつも通りだった。
そのままテストを迎えて、やっぱり吉沢くんは高得点だったし、部活でも何も変わりはない。

あのどこか悲しそうな顔は無かったことにしていいのかな、と思い始めていた。

「次の大会で三年は引退です。全力で頑張ろう！」

部長がそう声をかければ、大声で返事が返ってくる。

引退か…

仲の良い三年生がいなくなるのは少し寂しくなる。
何だか自分の時のことを思い出した。

私たちの最後の大会は、１試合目から強豪校に当たってしまった。
それでも、大丈夫、私たちならいける、って必死に励まし合って挑んだ。

結果は、負けだった。

帰るバスの中で泣きながら先生の話を聞いたのを思い出す。

勝つ人がいれば、当たり前に負ける人がいて。
でも負けることは悪いことじゃない。
成長してから思い返せば、いい思い出になるんだ。

そんな先生も涙目だったけど。
確かに、いい思い出になったよ、みんな。

『よし、じゃあ練習始めて！』

「「はい！」」

まるで昔の私たちみたいな姿に笑ってしまう。
隣にいた山﨑先生が不思議そうな顔をした。

「先生、どうかしましたか？」

『いえ。ちょっと…昔のことを思い出しただけです』