子供のまま、痛いまま【吉沢亮】 (ページ5)

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軽くノックして扉を開ける。

「失礼しまーす」

「はーい、…って、A。どうしたの？」

『いや、ちょっと休憩しに？』

「休憩に保健室使わないでよ。誰か怪我人が来るかもしれないのに」

『来たら帰りまーす』

机に向かって座っているふみの隣に、椅子を持ってきて座る。
コロコロと転がる椅子で回転しながら、昨日のことを思い出した。

『そういえば、昨日のお酒大丈夫だったの？』

「うん、何とかね」

『初日から二日酔いの養護教諭…』

「…最低だね」

その後も軽口を叩き合っていると、ドアがノックされた。

…あ、やば。

「はーい、どうぞ」

「失礼します」

ドアが開かれ、冷えた空気が流れてくる。
そこには吉沢くんがいた。
私を見るなり、きょとんとした顔になる。

「あれ、立花先生？どうかしたんですか？」

『えーっと…』

流石に、休憩中です！と言う訳にもいかず、どう答えようかと視線を泳がせていた。

「あー、はいはい。そこ座ってね」

「あ、はい」

助け船…ありがとう、ふみ！
目線で感謝を伝えようとじっと見つめていたら、完全に無視された。

ねえ、絶対気付いてるでしょ。
…あれ、吉沢くん笑ってる？

「…部活で足捻っちゃって」

「そっか…ちょっと見せてね」

いや、確実に笑ってる。
我慢しようとしてるけど、口角上がってる。
こいつ…

「ふっ…」

『やっぱり！！』

「これは舐められてるね。A、どんな授業したの？」

『ちゃんと普通に授業したよ！』

「声大きいな」

「ふっ、あはは！」

『まぁた笑いよって…』

軽く睨むと、笑ったまま、すいません、と謝られた。

「真面目な先生なのかなって思ってたんですけど、まさか」

こんな人だったとは…と、なお笑顔で言う。

『こんな人…』

「良い意味で、ですよ！こっちの方がいいと思います」

『第一印象が大切なのよ…』

真面目な先生キャラで落ち着けようと思ってたのに。
落胆する私をよそに、私達の会話を黙って聞いていたふみの手当てはすぐに終わった。

「よし、終わり。痛みが引くまで、あんまり動かしすぎないようにしてね」

「はい。ありがとうございました」

靴を履き直し、ふみに軽く頭を下げた吉沢くんは、くるりとこっちを向いた。