子供のまま、痛いまま【吉沢亮】 (ページ39)

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新学期一回目の部活…なのだが。

俺にとって今最大の問題は、この目の前に立っている先生。
よろしくね～、なんて呑気に笑っているA先生は、俺と隆以外の部員ほぼ全員が鼻の下を伸ばしていることに気付いているのだろうか。

「亮、怖い顔してるよ」

俺の頭の中が分かったのか隆がそう言って小さく笑った。
横目でじとりと睨んだ後、未だにニヤついている野郎共に視線を向ける。

“このむさ苦しい空間に女の先生が入ってきただけでも嬉しいのに、その先生はまさかのA先生だった！”

という奇跡的状況に全員この顔になっている。

そう、A先生は人気なのだ。本人に自覚があるのかは置いといて。

『えっと…山﨑先生は皆のこと呼び捨てなんですよね？』

「はい。そうしてます」

A先生がもう一人の顧問にそう尋ねた。
山﨑賢人、って女子から物凄い人気の先生。イケメン。

『じゃあ、私も呼び捨てにします！』

仲良くなりたいからね、と先生が笑った瞬間、周りから歓声が沸き起こる。
俺はポーカーフェイスでなんとも思っていない風を装っていたが、内心は動揺しまくっていた。

呼び捨てにされるのは嬉しい。
でも他の奴らもそうなる。

これは…喜んでいいのか？

先生が一人ずつ名前を確認しに回ってくる。
順番が近づいてくるごとに、心臓の音が身体中に響いた。

『次は……亮』

「…ちょっと考えたね」

『ギリギリ思い出せたからセーフ』

にっこり笑って通り過ぎた。

…ヤバい。

思っていたより破壊力が凄まじい。
顔に出ないように深く息を吐いて、ほんの数秒でじわじわと込み上げた感情を誤魔化そうと下唇を噛んだ。

『神木くん…あー、名前忘れた…』

「隆之介」

『それだ！亮はなんて呼んでるんだっけ』

「…隆？」

『隆ね。それでいこう』

急に話を振られて、少し詰まりそうになった。
自分の名前なのに自分の名前じゃないみたいだ。
嬉しくてまた口角が上がる。

「ニヤニヤしてんじゃねーよ！」

隆が小声で言ってどついてくる。
緩んだ顔を隠そうと腕を口元に当てた。

「いや、ヤバい。これは…ヤバいんだって」

「よっぽどヤバいんだね。それしか言えなくなってるし」

からかうように笑っている隆の足を踏んづけて、A先生の方をちらっと見る。
先生は真剣な目をして一人一人と話しているけれど、通りすぎた後の部員の顔は嬉しそうに崩れている。

…むかつく。

ぼんやりとそう思った。