子供のまま、痛いまま【吉沢亮】 (ページ36)

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『そんなあなたは随分貰っているみたいですけど？』

「全部兄弟の胃袋に消えるんだよ、毎年」

『一人で食べきれる量じゃないか。モテる男は違うね！』

「まあね」

『…ふふ、』

先生と笑いあっているだけで気分がふわりと上昇していく。
毎日通っているただの通学路ですら、いつもの何倍も鮮やかに見えていた。

恋ってすげぇ。

単純にそう思ったりして。

「あ～、腹減った！」

『…狙ってるよね？』

わざと大きな声を出しながら、先生の顔と手に持っているチョコレートを交互に見る。
俺の魂胆に気付いた様子だったけど、部活終わりの成長期だしなぁ…とぼそぼそ呟いた後。

『はい、どうぞ』

赤い箱を差し出してきて、ポケットに突っ込んでいた片手を出して手を伸ばした…ら、目の前から消えた。
驚いて先生の顔に視線を動かすと意地悪そうに笑っていて、口開けて！と聞こえてその通りにすると、

『ほいっ』

「…！？」

チョコレートを口に放り込まれた。
ナイスシュート！とかなんとか言って笑っている先生は、随分子供だと思う。

「いや、美味い。美味しいけど」

『もっと方法があるだろう、と？』

「そう」

『だよね～！私もそう思ったー』

「じゃあなんでやったの…」

そんなことを言っても、先生が笑っているから幸せな気持ちになる。

…なんだこれ。

先生からバレンタインチョコを貰えたからなのか。
口の中で溶けるチョコが、やけに甘い。

『あ、じゃあ私こっちだから』

「ん、ばいばい」

手を軽く振った後、背を向けて歩き出すその後ろ姿がだんだん小さくなっていく。
呆気なく離れてしまった距離に気付きたくなくて自分も歩き出した。

もう聞こえなくなってしまった足音も、何故か耳に残っている。

あともう少しだけ、一緒にいられたら。

どんどん欲張りになっていくこの気持ちを、微かに残ったチョコレートの味が包み込んでくれた気がした。