子供のまま、痛いまま【吉沢亮】 (ページ31)

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文化祭の初日、真っ暗な体育館。
スポットライトを浴びながら、彼は階段を駆け下りる。

「シンデレラ！」

まるで、本物の王子様がそこにいるようで。
彼の発する言葉、些細な動作、一つ一つに目が離せなかった。

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割れんばかりの拍手が聞こえて我に返った。
もうすでに幕は下りていて、ガヤガヤと騒がしい音だけが響く。

…今のは何だったんだろう。
さっきまでの事をよく思い出せない。

天井の電灯が全てつき、一気に現実に引き戻されたような感覚がした。

『……あ、行かなきゃ』

久しぶりに出した声は掠れた。

ギシギシと軋むドアを開けて体育館の外へ出る。
外は眩しい位に明るくて目を瞑りそうになる。

後ろでバタンと音を立てながらドアが閉まった。
冷たい風におされるように歩き出すと、不意に金木犀の匂いがした。

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『ふみ！一緒に食べよう』

「いいよ～」

少し長めのお昼休憩が始まって私はふみの元へ向かった。
とっておきの場所がある、と話しながらどんどん階段を上っていく。

「…あぁ、なるほどね」

『分かった？』

笑いながら着いた最上階のドアを開ける。
屋上の端のフェンスと段になっているところに並んで腰掛けた。

『屋上でお弁当とか何年ぶり？』

「五年ぶり？」

『そんな前だったっけ…』

「五年前は高校生って若いでしょ」

喋りながらお弁当の蓋を開ける。
卵焼きを口に放り込んで、美味しい、私天才。とか言ってたらいつの間にかもうひとつの卵焼きを取られていた。

「だし巻きだ！美味しい好き」

『知ってた』

「謙遜しなさい」

笑いあってまた一口頬張ると急に風が吹いて、前髪が避けられ視界が開ける。
見上げると、何もない真っ青な空が広がっていた。

『…綺麗だね』

「うん。本当に」

こんなに晴れやかな気持ちなのは、今幸せだから。

…でも足りない、確かに五年前にあったものが欠けている。

なんて、今でもそう思ってしまう自分が嫌いだ。