子供のまま、痛いまま【吉沢亮】 (ページ30)

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体育大会が終わればすぐに文化祭が始まる。
休む暇も無く、放課後には演劇の準備をしたりと全員が動き回っていた。
私はどのクラスも担任していないから、忙しそうな所を見つけては声をかけている。

『神木くん、手伝おうか？』

「先生！ありがとうございます、それ運んでください」

『はーい』

塗装まで終わり、完成したベンチを運び出す。
ちなみに、神木くんは道具や背景を作る係のリーダーらしい。
手の中のそれは丁寧に作られていて、凝ったデザインになっていた。

教室の中ではキャストが練習していて、音を立てないように静かに歩いた。
このクラスではシンデレラをやるみたいで、聞こえてくる台詞には迫力があった。

うわ、演技上手いな……

そんなことを思いながらベンチを置くと完成した衣装が目に入る。

無地のワンピースと汚れたエプロン、綺麗な淡い水色のドレス。
そして、“ガラス”と書かれたスニーカー。

『……何これ』

「あれ、先生どうしたの」

近付いてきた影に環奈ちゃん、と振り返って、もう一度ガラスの靴に視線を落とす。

「あー、これ？」

『…何でこうなったの？』

「だってさ、本物のガラスの靴なんて作れるわけないじゃん」

『まぁそうなんだけどさ…もっと他にあったでしょ』

環奈ちゃんは衣装係だから、これを作ったのも彼女だということ。
ドレスの完成度は凄く高いのに急に質が落ちてる。勿体無い。

しまいには、ウケを狙ってるんだよ。なんて言われてしまった。

『もう何も言わない』

「それがいい」

深く頷いた彼女を見て笑ってしまった。
ふと練習中のキャストの方に視線を動かすと、見覚えのある姿がそこにいた。

『あれ、吉沢くんってキャストなの？』

「そうだよ、王子役。これは最優秀賞だね」

世の中顔だよ、なんて悟った様に話す環奈ちゃん。
言っとくけど、あなたも美少女だからね。

「先生～、ちょっと来て！」

声のした方を見ると、隣のクラスの子が手招きしていた。

『今行く！じゃあね、環奈ちゃん』

「ばいばい」

環奈ちゃんに手を振り返し、その子の元へ駆け寄る。

『どうしたの？』

「これ塗るの手伝って欲しくて」

『ん、分かった』

「ありがと！」

彼女と笑いながら教室を出る。
ずっと追いかけていた吉沢くんの視線には気付かずに。