子供のまま、痛いまま【吉沢亮】 (ページ29)

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吉沢side

「A先生」

『あ、吉沢くん』

「リレーどうだった？先生応援してくれてたよね」

思い出せば、思わず笑みがこぼれる。

走りながら応援席にいるはずの先生の顔を探していた。
そしたら思い切り目が合ってしまって、でも見てくれてたのが嬉しくて。

何事もなかったように走り終わったけど、内心バクバクだった。
多分耳も赤くなってたかも知れない。

気を抜いたらニヤついてしまいそうで、必死で顔を引き締める。

『見てた！格好よかったよ』

なのに、先生がそんなこと言うから。

顔が緩まずにはいられない。

「…ありがと。じゃあね、先生！」

『気を付けて帰ってね』

先生は、そうやっていつもと同じようにふわりと笑った。
その笑顔で更に顔が赤くなる。

見られないようにすぐ背を向けて歩き出した。

ヤバい……あれ、反則。

俺、本気で好きになってるんだ。

改めて自覚すれば、恥ずかしいような、嬉しいような。

言葉で表せないむず痒い気持ちになった。

.

変に緊張してしまったけれど、きっと違和感無く話せたはず。

…何やってるんだろ、私。

自分の足元に視線を落として、自分の事を鼻で笑った。

「A？」

『え？…あ、ふみ』

顔を上げればふみがいて、今までの自分の思考を誤魔化す様に笑った。
ふみは一瞬心配そうに顔を覗き込み、すぐいつもの表情になる。

「後で職員室集合だって。会議が終わったら解散だから、一緒に帰ろう」

『うん、分かった。ありがとう』

「…あんまり、思い詰めないようにしなよ」

そう聞こえた瞬間、息が詰まりそうになった。

…なんで。

言葉が出てこなくなって、必死に口角を上げたままなんとか頷いた。

自分の顔を隠したくて前髪で視界を狭める。
彼女の表情は見えなかったけれど、少し躊躇したような様子でゆっくりと足音が離れていった。

ふみは…全部分かってるのかな。

気を使わせてしまった。
そう分かったら情けなくて、涙も出なかった。

校舎に向かって歩き出す。

『…ぐちゃぐちゃだ』

見上げた空には沢山の雲が渦を巻き、地面に影を落としていた。
所々が赤くなっていて、それが余計に気持ち悪く思わせる。

なんて汚いんだろう。

無情にもそう思う自分は、自分じゃないみたいだった。