子供のまま、痛いまま【吉沢亮】 (ページ18)

今日:16 hit、昨日:9 hit、合計:96,646 hit

17 ページ18

ふみside

『ふみー』

「何ー」

放課後の保健室。
毎日来られるから、もうA専用の椅子まで用意してしまった。

私は仕事をしながら、二人で一日の出来事を話すだけの時間。

『吉沢くんの敬語が無くなってるんだけど』

Aは、遂になめられた？と首を傾げる。

吉沢亮。彼の事がどこか引っ掛かる。

「もとからでしょ」

『嘘だ！』

今日、二人と会った時。
その時の彼のAを見る目は、まるで……

『ふみ？』

「ん、何？」

『聞いてなかったでしょ』

「ごめんごめん」

そんな口調で言いながらも、Aは優しく微笑んでいる。

…考えるのは後にしよう。

そう、思った。

.

少し前、Aは職員室へと帰った。
時計の針は六時を指している。

クーラーの音だけが響く部屋で、崩れていた姿勢を正す。
甘くしたコーヒーを一口飲み、残りの仕事に向かった。

.

仕事を全て片付けた後、なんとなく視線を天井に移した。

彼の目が忘れられない。

好きな人に向けるような、あの優しい目。
…まるで、倫也くんがAを見る時のような、あの暖かい目。

諦めてって言ったのに、吉沢くんはまだAの事を？

思考は止まることを知らなかった。

どうして私は、他人をすぐに彼と重ねてしまうのか。

私が今まで出会ってきた人の中で、一番印象の強い人だったから？

彼が一番人を愛していて、
一番、儚かったから？

「何考えてるんだろ」

誤魔化すように、コーヒーを飲む。
最後の一口は、底に溜まったシロップでやけに甘かった。

目頭をぎゅっと押して、椅子の背に凭れる。

倫也くん。

あの卒業式の日、Aと別れる事なかったじゃない。

あなたが居れば、全て丸く収まるのに。