子供のまま、痛いまま【吉沢亮】 (ページ13)

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ふみside

「どうしたんですかね、A先生」

「ね。用事でもあったのかな」

…そんな訳ない。最近は仕事を全て終えてから来ていたから、用事なんてない。

吉沢くんに嘘をつくのは申し訳ないけど、こればかりは仕方がなかった。

でも、この子はきっと気付いてる。
何かあったんだと気付いた上で何も言わないでいる。

…でも、私には言えない。
Aの事を簡単に話したり出来ない。

この空気からどう逃げようかと頭を働かせる。
でも、先に口を開いたのは吉沢くんだった。

「A先生…昔、何かあったんですか？」

これだから真っ直ぐな子は困る。

さすがに、そこまでして人の事を知りたがる理由には心当たりがあった。

「…吉沢くんは、Aの事が好きなの？」

「へっ！？」

彼の耳がだんだん赤くなっていく。

やっぱり、年頃の男子だなぁ。

改めてそう思うと、口角が上がった。

「先生を好きになるとか…少女漫画みたいでニヤニヤする」

「ちょっ、絶対言わないで下さいね！」

「言わない言わない」

そうやってからかっても、話す訳じゃない。

…こんなことを高校生に言うには、重いかもしれないけど。

「でも…Aのことは諦めてあげて」

「え、な…」

なんで、と吉沢くんが言いかけた。
最後まで言えなかったのは、きっと私が真剣な目をしていたから。

私は、Aを守らないといけない。
優しくて、面白くて、頑張り屋で、大きな傷を抱えた彼女を。

「こんなこと言ってごめんね。でも君なら、もっといい人が見つかると思うよ」

「…はい」

その返事を聞いて、安心する。
空気を切り替えて笑顔で言った。

「よし、そろそろ部活に戻って。女の子達もいなくなっただろうし、ずっとここにいられると困るからね」

「はい、失礼しました」

表情の柔らかくなった彼を見送る。
ドアが閉まって足音が遠ざかってから、ゆっくりと息を吐く。

また、一人。
…ごめん、A。