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第9話 ページ9

あれから数日経ったある日のこと。
わたしは今、非常に困っている。


「いいケツしてんなぁねーちゃーん」
「ちょっとお兄さんに触らせてよぉ」


ははは‥‥と乾いた笑いを零した。
時間が遅くなるに連れて、来店されるお客様は酔っ払いが多くなってくる。
絡まれることもたまにあるが、ここまでガッツリセクハラされるとやっぱり面倒臭い。

「お金取りますよー?」
「いくらでも払う払う!」
「おねーちゃん可愛いねーいくらで触らせてくれる?」
「時価なんで今日は3万です」
「面白いこと言うね!」

一応対応はするが、正直関わりたくはない。
女の子に絡みたいならそういうお店に行けばいいのに‥‥。

「店長ーちょっといいですかー?」

キッチンから大野君が大きな声で呼んでいる。

助かった!

客席を離れ、急ぎ足でキッチンに向かった。

「どうしたの?」
「‥‥あんた隙ありすぎでしょ」
「へ?」
「変に真面目に対応するからあーやって絡まれるんすよ」

次からは助けないですからね。


それだけ言ってふいっ、とそっぽを向いてキッチンの奥へと引っ込む大野君。
助かったじゃない、助けてくれたのか。
感謝と同時に、あまりのツンデレに少し胸が高鳴った。意外と優しいんだな、大野君。



先ほどの酔っ払い2人の会計が入り、お釣りを渡して扉をあける。

「ありがとうございました」
「ういー飲みすぎたー」
「おねーちゃん電話番号教えてよー」
「いやちょっとそれは‥‥」

最後の最後までうっとおしい‥‥。
さっさと扉をしめてやりたかったが、会話が続いている以上そういうわけにもいかず。

「おねーちゃんちょっとこっちきて」
「はい?」

ちょいちょいと手招きされ、外に出る。
ああ面倒臭い。

「ほら、こっち」
「何かありました?‥‥う、!」

一瞬、なにが起きたのかわからなかった。

真正面の男に口を塞がれ、後ろからも羽交い締めをくらう。

やばい、と思った時には、抵抗虚しくずるずると引きずられるように店の脇の路地に連れ込まれていた。

「っ、」
「いい子にしてれば優しくしてあげるからね」

怖くて怖くて、喉が震えて声も出なくなった。
暗くて何も見えないが、目の前の男の気持ち悪い笑顔はやけに鮮明に見えてしまって。

こんなことは初めてだ。どうしていいかわからない。

でも、ふと気付いた。

「ぅ、うー!ううーっ!!!」
「ちっ、うるせーな」

ここは店のキッチン側の壁だ、窓もあるし、きっと大野君に届くはず。

助けて、助けて!!

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作者名:こばやし | 作成日時:2017年4月2日 20時

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