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第8話 ページ8

「はい、はい。かしまりました。お疲れ様です」

通話を終了して、はぁ、とため息を零す。
社長との会話は、直接であれ電話越しであれとても神経を使う。
結局30分も捕まってしまった。
その間大野君を1人にしてしまっているので、心配になってすぐにキッチンへ出る。


「ごめんね、大丈夫だった?」
「余裕っす」

ぐっと親指を立てる大野君。なんと頼もしいことか。

ホールを見ると、お客さんはいつものカウンターのえおえおさんだけだ。
相変わらずもくもくと、だが時折顔をあげて、幸せそうにもぐもぐと咀嚼している姿が見えた。

微笑ましく見ていると、ふと目が合う。

「‥‥なにか?」
「あ、いえごめんなさい、あんまりにも美味しそうに食べてくれるので」

見てたことがバレて少し恥ずかしくなって、ね、大野君、なんて無茶ぶりしてみる。

「一生懸命作った甲斐があるっすね」
「ね」

いつも仏頂面の大野君が、口元だけ笑いながら言うのでわたしも合わせて微笑む。
えおえおさんはちょっと気まずそうに、しかし恥ずかしそうに頬をかいて、

「‥‥うまいです」

それだけ言って、またお味噌汁をすすった。


また新たな発見をした。


「(無愛想なのかと思ったら‥‥この人意外と可愛い)」




やがて目の前のお皿を全て空っぽにした彼は、ごちそうさまでした、と手を合わせた。

「お会計お願いします」
「はーいかしこまりました」

予めレジに打っておいたので、すぐさま伝票を持っていく。

「こちらになります」

お財布をこしょこしょと探っている手元を何となしに見ていると、あの、と声が降ってきた。

「ありがとうございます。今日も‥‥うまかったです」

相変わらず目線はお財布だったが、その声と話し方で感じる。

‥‥彼、結構頑張って言ってくれたのでは。

「あ、‥‥いえ、恐れ入ります!嬉しいです!」

慌てて笑顔で対応すると、少し俯く彼の耳は真っ赤だ。
きっといつも、人に気持ちを伝えるのが苦手なのだろうということがわたしにもわかる。

やばいどうしよう、この人めっちゃ可愛いぞ‥‥。

やがてお札を取り出すと、おつりは募金で、と呟く声が聞こえた。

「え、いや、これ‥‥」
「ごちそうさまでした」
「あ、ちょっと、」

いつもはちゃんと上着を着てから出ていくのに、会話を遮るように上着を掴んでそのまま出ていってしまった。

「‥‥おつり、8000円近くあるけど‥‥」

律儀にきちんと閉められた扉を見ながら、呆然と立ち尽くしたのであった。


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作者名:こばやし | 作成日時:2017年4月2日 20時

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