第7話(E side) ページ7
目的の駅に到着し、電車の扉が開くと、一気に冷たい風が流れ込んできた。
春になったとは言え、夜はまだ肌寒い。
思わず、着ていたコートのポケットに両手を突っ込んだ。
｢(腹減った)｣
生放送を終え、なんやかんやしていたら少し遅くなってしまった。
最近お気に入りのあの店は、まだ営業してるだろうか。
酔っ払いでザワつく駅前を足早に通り抜け、大通りから1本外れた裏道を急ぐ。
｢(よかった、まだ電気ついてる)｣
前回、あろまと来たのは３週間ほど前。
ロードバイクで散歩中にたまたま見つけたその居酒屋が、最近の俺のマイブームである。
とにかく飯がうまい。
和食が多く、店内も静かで落ち着いて食える。
どこかの地方の郷土料理らしいが、これがまたなんとも俺好みの味付けで種類も豊富と来たもんだ。
ハマらずにはいられない。
｢いらっしゃいませー｣
店内に入ると、いつもキッチンのほうにいる大学生っぽい男が客席のほうにいた。
｢まだ大丈夫ですか？｣
｢大丈夫っすよー、カウンターどーぞ｣
いつもの店長さんと違って、結構ゆるい感じで面食らう。
俺は別に嫌いじゃないが、あろまなんかはブチ切れそうな対応だ。なんとなく、店長さんがいつもホールにいる理由がわかるような気がする。
今回もいつものカウンターに座って、今日は何にしようか、と早速メニューを開く。
｢店長ー、いつもの人来てますよー｣
キッチンの奥から、そんな声が聞こえてきてぎょっとした。
いや、そんなわざわざ伝えなくていいんですけど‥‥。
やがて程なくして、ガタガタバタバタと騒がしい音が聞こえてきて、店長さんがひょっこりと現れた。
奥から走ってきたのだろうか、前髪が少し乱れている。
｢あっ、いらっしゃいませ！今日もありがとうございます！｣
目が合うと、やはりいつもと変わらない笑顔でそう言ってくれた。
｢ど、どうも‥‥｣
別に常連だなんて自分では思ってないので、特別扱いしなくてもいいのにと思ってしまう。
少し遠慮がちにそう会釈すれば、
｢先日はありがとうございました、ゆっくりしてってくださいね！｣
こちらこそ、と俺がいう間もなく、笑顔のままそう言ってまた慌ただしく奥へと引っ込んで行った。
入れ替わるようにして、先ほどのバイト君がお通しを運んでくる。
｢慌ただしくてすんません、ちょうど社長から電話入ってて忙しいみたいっす｣
いえいえ、と相槌をうちながら、こいつ意外としっかりしてるななんて思って少し面白かった。
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作者名：こばやし
| 作成日時：2017年4月2日 20時
