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第43話(E side) ページ43

バイクを停めて、公園のベンチに横並びで腰掛ける。
途中のパン屋で買ってきたベーグルを頬張りながら、隣のAさんをちらりと盗み見た。


やべぇすげー可愛い。


「もうすっかり春ですねぇ」

そう言ってふにゃりと笑ったAさん。
手に持ったベーグルサンドのせいか、頬にマヨネーズがついたまま桜を見上げている。

なんだ、俺にどうしろと言うんだ。くそ可愛い。

前回見かけたカジュアルな装いとは違って、今日は女の子らしいピンクのニットだ。
控えめなアクセサリーも、彼女の白い肌によく似合う。

自分から誘っておいてあれだが、なんだか幸せすぎて後悔すらしている。これ以上どう好きになれというんだ。ちょっとキレそうだ。

「頑張って連絡したかいがありました‥‥」
「ふふ、起きてびっくりしました、すぐ気付けなくてごめんなさい」
「いや、どうせ一日中ヒマだったんで大丈夫です」
「えおえおさんもお休みだったんですね」

「‥‥Aさん、ほっぺに」
「え?」

自分の口元を指さしてそれとなくマヨネーズの存在を教えると、気付いた彼女は慌ててナプキンで拭き取った。桜色の頬がみるみる赤くなっていく。

「あ、ありがとうございます‥‥」


あーーー死ねる。これは死ねる。


落ち着かない俺は幾度となくアイスコーヒーを流し込むせいで、もうほとんど味なんてわからない。
まて、落ち着け。童貞じゃあるまいし。


「いつもお休みの日は何してるんですか?」


Aさんが問いかけた。
俺は口の中のベーグルをもぐもぐしながらうーん、と考えて、

「寝てるかゲームですね」

それだけ答えた。それしかなかった。笑えない。

「ふふ、休みの日もゲームしてるんですね」
「まぁだいたいFBから連絡来て、2人でスカイプ繋いでやってますね」
「えおえおさんらしいっちゃらしいかも」
「時々何やってんだ俺って思いますけど」
「ふふふ」

何気ない会話も、頑張らなくていいこの穏やかな空気も、真上の桜も、暖かい日差しも、全部心地いい。

騒々しい毎日に追われていて、忘れかけていた感覚が戻ってくる。
久々に休みを満喫している気分だ。



だが、人の心はどうしても、更に上のものを求めるもので。


もう少し、縮めたい。
微妙にあいた彼女との物理的な距離と、一線を引いたような、目に見えない心の距離。


店長さんとお客さんから、もう1歩、進みたい。


近付きたい。


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作者名:こばやし | 作成日時:2017年4月2日 20時

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