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第40話 ページ40

「ほら、こんな風に撮れました」

そう言って液晶画面に表示された、一枚の写真。

薄い雲に覆われて霞んだ月は幻想的で、それを見上げながら歩くわたしの後ろ姿は、いつものリュックにいつものジャケットでも、まるでわたしじゃないみたい。

絵画のような美しさの中に、今にも動き出しそうな程の臨場感もあって、歩いてください、と言った言葉の意味が少し理解できた。

「す、すごい‥‥」
「久々にいいの撮れた」

そう言って満足そうに画面を見るえおえおさん。

「お願い聞いてくれてありがとうございました」
「い、いや、こんな写真撮られるなんて思ってなかったけど‥‥普通に尊敬します」
「はは、照れます」

背負っていたリュックに丁寧にカメラをしまい込む。
そっか、えおえおさんはこんなことも出来るんだ。

「結構いつでもシャッターチャンス狙ってるんで、気抜かないでくださいね」
「ふふ、気をつけます」

そう言えば、写真集にもえおえおさんが撮った写真が載ってたっけ。
猫や、うさぎと戯れるFBさんの姿を思い出して、また笑みが零れる。


「そろそろ着きますね」
「はい、今日も楽しかったです」

気付けば、分かれ道の交差点はもうすぐそこだ。
楽しかった時間があっという間に終わって、急に現実に戻されたように気持ちがしゅんとする。

立ち止まって、また目線が交わった。

「‥‥今日は、待っててくださって‥‥ありがとうございました」
「いえ、勝手にやったことなんで」
「またご飯、行きましょうね」

連絡しますから、とケータイを振りながら言うと、えおえおさんも笑ってくれた。

「‥‥」
「‥‥、あの、Aさん、」
「‥‥はい」

どうしよう、寂しい。
ずっとこのままがいいな。

とにかく余計な気持ちが伝わってしまわないように、名前を呼ばれて笑顔で答える。

えおえおさんは何かを言いたそうに口ごもったが、やがていつもの優しい笑顔に戻って、


「‥‥おやすみなさい」


そう言って、わたしの頬を、親指で優しく撫でた。


「‥‥!」


きゅっと、息が詰まった。

初めて触れた、えおえおさんの手。


「じゃあ、また」


一瞬の出来事に、呆気に取られて手を振ることしか出来なかった。


離れていくえおえおさんは、振り返らない。


「‥‥ぁ、」


見えなくなって、やっと口が開いた。


頬をすべった指の感触が、まだそこにあるようで。


「‥‥っ!」


ぼっ、と、顔が熱くなった。




「(ほ、ほっぺた‥‥焦げそう‥‥っ!)」


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作者名:こばやし | 作成日時:2017年4月2日 20時

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