第39話 ページ39
｢あ、いや、無理にとは言わないです、あの、また飲みいったりしたいななんて、｣
｢むむむむ無理じゃないです！ぜひ！ぜひ！！｣
お互い慌ててしまって、立ち止まってケータイを取り出したところでちょっと面白くなって、ふふ、と笑ってしまう。
｢‥‥Aさん‥‥？｣
｢ふふふ、いえ、ホントはわたしからお伺いしようと思ってて、先越されたなぁって｣
｢‥‥そ、そうですか｣
えおえおさんは、少し照れたように頬をかいた。
やがて、お互いの連絡先が登録されたのを確認して、ひとつだけ、猫のスタンプを送ってみる。
｢かわいい｣
｢ふふっ｣
えおえおさんから、兵隊さんが敬礼をしてるスタンプが送られてきて、顔を見合わせて笑った。
｢Aさん、ひとつお願いしてもいいですか？｣
立ち止まったまま、えおえおさんが問いかける。
｢はい、何でしょう？｣
｢そこ、そのまま立っててください｣
｢え、｣
言われて戸惑いながらも、その場を離れて後ろに歩いていくえおえおさんを見送る。
隣の温もりがなくなって寂しくなって見つめていると、えおえおさんは10メートル程離れたところで振り返った。
｢俺に背中を向けてください｣
｢え、こ、こうですか？｣
｢はい、それで、ちょっと右上を見て｣
｢は、はい！｣
｢顔だけちょっとこっちに向けて、もうちょい｣
｢う、うう｣
何が何だかわからず、とりあえず言われた通りに従う。
見えないので、えおえおさんが何をしてるのかわからない。
｢そのまま、ゆっくり歩いてください｣
えおえおさんが隣にいないけど、躊躇いながら、斜め上を見上げてゆっくりと歩く。
あ、月だ。
真っ黒な空に、うっすらと光る月を見つけた。
あんなに薄くても、ちゃんと照らしてくれてる。
｢えおえおさん、月です｣
聞こえたかな。
聞こえなくてもいいようなどうでもいい報告だったけど、そうですね、と返事が帰ってきて安心する。
良かった、ちゃんと後ろにいる。
｢‥‥‥‥綺麗です｣
ぽそりと、えおえおさんが呟いたのが聞こえた。
程なくして、ありがとうございます、と言いながらえおえおさんが戻ってきた。
ふと手元を見ると、そこには一眼レフ。
｢‥‥え！！！写真！！？｣
｢すいません、撮らせていただきました｣
えへへ、と笑うえおえおさんはとっても可愛らしいけど！！！
一言欲しかった‥‥！！
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作者名：こばやし
| 作成日時：2017年4月2日 20時
