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第37話(E side) ページ37

街灯の光は、なんとなく物悲しく感じる。
缶コーヒーを片手に、ふとそんなことを思った。

「‥‥終わったかな」

俺は今、電気の消えた店の前にいる。

俺が帰ったあとは、すぐ締めると言っていた。
本当は店を出る前に、待ってますとか、この後空いてますかとか、言いたいことはあった。

だが、今日、Aさんとバイト君の雰囲気はなんとなくおかしかったように思う。
俺も空気の読める男だ。そんな中で飲みに誘うだなんてKYもいいところだと自重して、今に至るわけだが。

出てきた彼女を捕まえて、飲みにでも誘おう。

ずず、とコーヒーをすする。

なんとなしに店に目を向けると、Aさんが中から内鍵を閉めているのが見えた。

「(お、そろそろか)」

思わず口角があがる。まだ行けるかどうかもわからないのに、俺も相当ふ抜けてしまったなと1人笑った。

そしてふと、Aさんの奥にもう1人の人影があることに気付いた。

バイト君だ。

何か話している。
なんとなしに見ていると、バイト君は俺の存在に気付いたようで、目線がかち合った。

「(やべ)」

一緒ひやっとしたが、まぁ別に変なことしてる訳じゃないし、なんならバイト君も一緒に飲みに誘ってみるか。

そう思って、視線があったまま軽く会釈をする。
彼は反応を見せなかった。

だが、そこで異変に気づく。

視線が俺からAさんに戻ったあと、バイト君が急にAさんとの距離を詰め始めた。



まて、まてまて。


思わず寄りかかっていた街灯から飛び退いた。
缶コーヒーが派手な音を立てて落ちたが、それどころじゃない。

飛び出して行こうと足に力を入れたところで、2人が離れたのが見えた。

良かった、変な気を起こしたわけじゃなかった。


一瞬、この店の横の通路での出来事がぶわっと頭を支配して、冷や汗が吹き出た。


心臓が有り得ないくらい早くなったが、とりあえずまた街灯に背を預けて、様子を見守る。缶コーヒーのことはもう頭にはなかった。




「うっす」

程なくして、バイト君が出てきた。

「‥‥どうも」
「‥‥アポなし出待ちって、意外と大胆すね」

随分と挑発的な態度だ。
だが、先ほどわざわざ俺に視線を寄越したこと、なんとなく察した。

「宣戦布告っす」

きた。

「‥‥若いねぇ」
「‥‥余裕っすね」

むかつく。

それだけ言い捨てて、彼は去っていく。

勝ち負けじゃない。
そう思ってはいるものの。

「‥‥(先手を打たれたな)」

ちょっと悔しくなったのは、秘密の話だ。


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作者名:こばやし | 作成日時:2017年4月2日 20時

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