【eoh.eoh】店長の恋は前途多難 (ページ30)

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第30話ページ30

人影のない夜道を、２人ゆっくり歩いていく。
時折、すぐ側の国道をトラックが通り抜けていくぐらいで、静かな夜だった。

｢すっかり暖かくなりましたね｣
｢そうですね。Aさんは寒いの苦手なんですか｣
｢うーん、どっちかっていうと暖かいほうが好きです｣
｢一緒だ｣

わたしたちといえば、こんな調子でずっとお互いの好き嫌い、得意不得意を話しているだけなんだけど。

楽しい。
えおえおさんと話すのは、とっても楽しい。

｢そう言えば、Aさんはいつもホールのほうにいますけどキッチンには入らないんですか｣

えおえおさんは、ずっと気になってました、とわたしを見ながら言う。

｢んー、キッチンが回らなくなったりとか、人がいないときは入りますけど、ほとんどホールですね｣
｢へぇ、でもAさんは人当たりが良いから、確かにホールでお客さんと話してたほうがしっくりきますね｣
｢ありがとうございます｣

ふふ、と、否定をせずに喜んでおく。
わたし的にも、ホールのほうが楽しいと思っているからだ。

｢キッチン向きの優秀な子たちがいるから、わたしは安心してホールにいます｣
｢いつものあの男の子も、キッチン向きっぽい｣
｢ああ、大野君はまさにキッチンですね｣
｢いつもうまい飯作ってくれてるの、おーのくんっていうんですね｣
｢はい、わたしの相棒です｣
｢‥‥お付き合いされてるんですか？｣
｢え？‥‥あ｣

その問いかけに、一瞬の疑問からハッとした。
そうだ、えおえおさんには、いつぞやの大野君からの衝撃告白を目撃されているんだった。

思い出して恥ずかしくなって、いやいやいや、と慌てて否定する。

｢お付き合いはしてないです。お断りして、また元のバイトと店長の関係に戻りました｣
｢そうだったんですか‥‥｣
｢そのせつは、大変お見苦しいところを見せてしまって‥‥｣
｢いやいや、こちらこそ変なタイミングに行っちゃって｣

そこまで言って、急に沈黙が訪れた。
やばい、どぎまぎし過ぎて気を使わせてしまった。

そう言えば、色々話していたけど恋愛に関してはノータッチだったような気がする。
いっそこのまま恋バナに持っていくか、いや待てよ変なこと口走ったらそれこそ終わりか。

ばーっと色々考えて、ちら、とえおえおさんのほうを盗み見ると、ばちっと視線が交わった。

えおえおさんも視線が会うとは思わなかったみたいで驚いていたが、やがて口元だけの微笑みが見えて。

｢‥‥、｣

ちょっとだけ、息が止まった。

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