第26話 ページ26
結局あのあと、タクシーが駅前にいなくて、待っている間立ち尽くすにも寒かったので、2人でラーメンを食べた。
わたしは仕事終わりでお腹が空いてたし、えおえおさんも何だかんだ締めが欲しかったようで、満場一致の決断だ。
食べながらいろんな話をした。
お仕事のこと。
家族のこと。
趣味のこと。
好きな食べ物、好きなテレビ、好きなゲーム。
過ぎていく時間が惜しいくらい、色んな事を知った。
「じゃあ、行きます」
タクシーが来ていて、えおえおさんは乗り込む前に振り返る。
「はい、お気を付けて」
「Aさんも」
店長さん。
わたしを表す名詞は、いつしか名前に変わっていて。
胸の奥がふわりと浮くような、もどかしい感覚がする。
「近いうち、また飯食いに行きます」
「ふふ、お待ちしてます」
「‥‥‥‥では」
ちょっと名残惜しそうに、タクシーに乗り込むえおえおさん。
どうしよう、引き止めたくて仕方ない。
ドアが閉まる直前、視線が合った。
「‥‥‥‥また今度」
もっと話してたいな。
わがままをぐっと我慢して、できるだけ笑顔で手を振ってお見送りをする。
動き出したタクシーの中で、えおえおさんも遠慮がちに小さく手を振ってくれていたのが見えた。
小さくなっていくタクシーのテールランプを見ながら、はぁ、とため息をつく。
やばい。
ちょっと好きになってしまったかもしれない。
思えば少し前から、おかしいとは思っていた。
えおえおさんが来ると気分があがって、次はいつ来るのかななんて、来てくれるのが楽しみになって。
次会えるのが、待ち遠しい。
またこんなふうに、2人でお話しながらご飯を食べたい。
いつか、2人で暖かい日差しの中でお散歩したい。
手を、繋いでみたい。
えおえおさんのタクシーが見えなくなるまで見送って、わたしはやっと歩き出す。
夜空を見上げるけど、さっきえおえおさん越しに見えた時ほどキラキラはしていなくて。
「‥‥‥‥店長のくせに」
お客さんに、恋をしてしまった。
えおえおさん。
えおえおさん。
名前の響きですら、特別に感じるなんて。
「‥‥‥‥ずるいよ」
ああ、早く会いたい。
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作者名:こばやし | 作成日時:2017年4月2日 20時