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第23話 ページ23

寝ているお客様を置いていかれることはたまにある。
だがそういう場合、外で待っていたり、駅前でタクシーを捕まえてまた戻ってきて来くれる事がほとんどだ。

しかし今回ばかりは、3人の規格外の対応に驚愕した。


「全然普通に帰ってった‥‥!!」


そのうち戻るだろうと、片付けは終わらせてもうわたしも帰るだけの状態にして待っていたが、来ない。本当に帰ってしまった。

なんて人たちだ‥‥。

「‥‥‥‥すぅ‥‥」

人の気も知らず、えおえおさんはテーブルに突っ伏してすやすやと眠っている。
何度かゆり起こそうとしたが全然起きない。

困った。

「(放置して帰るわけにもいかないし‥‥)」

向かいの席に座ってえおえおさんのつむじを眺めたあと、時計を確認するが、終電なんてとっくに終わっている。
こうなると、起こしたところでえおえおさんもしかしたら帰れないかもしれない。あ、タクシーはまだあるか。いやだがしかし、どうしたものか。


「‥‥えおえおさーん」
「‥‥‥‥んー‥‥」
「‥‥起きてます?」
「‥‥‥‥‥‥ぅー‥‥」
「‥‥」


よし、もう1回起こしてみよう。今なら起きそうな気がする。どうするかは、えおえおさんが起きてから考えよう。

「えおえおさん」

顔が見える隣の位置まで移動してちょっと強めに揺すってみると、うっすらと瞼が開いた。

「‥‥‥‥ぅ」
「えおえおさん、起きてください」
「‥‥‥‥‥‥」
「えおえおさん」

瞼が閉じそうになる度に、眉間に寄る皺にお構いなくぺちぺちと頬を優しく叩く。
やがて、腕に顔を埋めたまま諦めたようにわたしに視線を向けるえおえおさん。
起きたかな?


「‥‥‥‥家?」

寝ぼけてる。
掠れた低い声に、ちょっと胸が高鳴ったのは秘密の話だ。

「お店ですよ」
「‥‥店」
「酔って寝ちゃったんですよ、えおえおさん。皆さんは帰りました」
「‥‥‥‥みんな」

動くのも喋るのも億劫なのか、わたしの言葉を繰り返し呟く。

「具合悪くないですか?お水あるから、飲んでください」
「‥‥‥‥ん」

ややあって、ゆっくりと身体を起こすと、事前にわたしが用意したお冷のグラスをぼんやりと眺めている。
見かねて手渡してあげると、1口飲んでテーブルに戻した。

「‥‥‥‥なまえ」
「え?」
「‥‥名前‥‥‥」

グラスを見つめたまま、えおえおさんが囁くように言葉を紡ぐ。

「名前?わたしのですか?」
「‥‥‥‥名前知らない‥‥‥‥お礼できない」
「‥‥、」

やばい面白い。


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作者名:こばやし | 作成日時:2017年4月2日 20時

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