第22話 ページ22
「店長さん、名前なんてーの?」
笑いを堪えきれていないあろまさんの声がする。
「‥‥Aです‥‥」
「めっちゃ耳赤い!ちょー可愛いんですけどー!」
「おいきくお!セクハラやめろ!」
「おっ、お会計してきますっ!!」
やばいめっちゃ恥ずかしい。
3人の笑い声を背中に、逃げるようにレジに駆け込む。サインどころではない。
えおえおさんが!あのえおえおさんが!
有名な人だったなんて!!!
「‥‥店長」
「はい!!」
呼ばれて振り返ると、大野君がいつか見たようなむすっとした顔で佇んでいて。
「あ、大野君ごめんね、いまお会計もらってきたから」
「それはいいんすけど‥‥」
時間なんで、あがっていいっすか。
そう言われて時計を見上げれば、シフトの終了時間から五分ほど経っていてぎょっとする。
「うわ、ごめん!大丈夫!ありがとう!」
「‥‥まだあの人たちいるようなら、残りますけど」
「え?」
訝しむような視線に、はっとする。
もしかして、心配してくれてるんだろうか。
まぁ、あんな事があった後だから、仕方ないっちゃ仕方ないけど。
「あ、ありがとう。でも大丈夫だよ、すぐ帰ると思うし」
「‥‥ほんとに?」
「う、うん‥‥それに、」
えおえおさんがいるし。
そう言いかけて、やめた。
さすがに無神経かもしれない。
「‥‥あの人たちは、信頼できる気がする」
そう言えば、大野君はちょっと間を置いたあと、
「‥‥そっすか」
それだけ言って、背中を向けた。
多分、大野君への返事はすでに、決まっていたのかもしれない。
離れていく大野君の背中と、あの日のえおえおさんの後ろ姿を重ねて、そんなことを思った。
少しの虚無感を振り払うように、おつりとレシートを手に取る。
「お待たせしました!」
きっくんさんに手渡せば、ありがとう、と笑顔が返ってきた。
「さーて帰るかー」
「忘れ物確認しろよてめーら!」
「あ、あの、えおえおさんは‥‥」
「あー置いてく置いてく」
「そのうち起きて勝手に帰るっしょー」
「えっ」
立ち上がって上着を着始める3人。
反応に戸惑っていると、やはりスタスタと入り口まで歩いていってしまう。
「あの、えっ」
「ごちそうさまでしたー!」
「時間出来たらまたきまーす」
「いや、ちょっと、」
ばーい!
お見送りとかそういうレベルの話ではない。
えおえおさんを置いて後ろ手に手を挙げて出ていく3人の背中を追いかけると、振り返る事もなく歩いていく。
「ま‥‥まじか」
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作者名:こばやし | 作成日時:2017年4月2日 20時