検索窓
今日:5 hit、昨日:0 hit、合計:87,467 hit

第13話(E side) ページ13

どんっ。

若干荒々しく、皿が目の前に降りてきた。
恐る恐る振り向けば、いつものバイト君。

「‥‥お通しっす」

それだけ言って去っていく。

待って、悪かったよ、俺が悪かったから怒らないでくれ。

いや、俺は空気読んで帰ると言った。言ったはずだ。
あけた扉も、そっ閉じした。でも店長さんが追いかけて来たんだ。俺は帰る気だった。ほんとに。悪くない、やっぱり俺は悪くない。

言い訳をしながらバイト君を見れば、むすっと口をへの字に曲げて野菜を切っている。

そして店長さんはというと。

「‥‥‥‥」

放心状態で洗い物をしている。もくもくと。
いやいや、口開いてます、口。

なんだこの空間は。やばすぎる。


「‥‥すいません」

恐る恐る声をかける。声が小さすぎて自分でもビビったが、店長さんがちゃんと反応してくれた。
前掛けで手を拭きながらこちらへ寄ってくる。

「は、はい!」
「‥‥なんか、すんません」
「え、いや、大丈夫です!気にせずどうぞ!」
「(気にするって‥‥)‥‥じゃあ、唐揚げで」
「かしこまりました!」

この人つえーな。

いつもと変わらない笑顔を見て、単純にそう思った。
しかし、口の端に貼られた小さな絆創膏を見て思い出す。

いや、この人本当は、


「‥‥体調はいかがですか」


気付けば、そんなことを口にしていた。

「え?‥‥あ、ごめんなさい、わたし助けてもらったのに、なんのお礼もしてなくて、」
「いや、そんなつもりじゃないです、ただ、傷治ったかなって気になっただけで」

お礼とかは別にいらない。美味しいご飯がいただければそれで。


「おかげさまで、もうピンピンしてます!」


そう言ってまた笑顔を見せる彼女に、なんとなく違和感を感じた。

「なら、良かった」
「ほんとに、ありがとうございました。今度また、ゆっくりお礼させてください」
「いやほんとに、気にしないでください」


違和感の正体がわからない。

ひとつわかるのは、

「‥‥‥‥‥‥」

キッチンからの燃えるような視線だった。

「(あいつこえー‥‥)」



「えおえおさん」

「え?」

不意に呼ばれて視線を戻す。

あれ、名前教えたっけ。



「今日もたくさん、食べてください」



その優しい笑顔を見て、違和感の正体がわかった。



「(‥‥本物は、こっちだ)」



営業用じゃない、嘘のないもの。
一切の邪念も吹き飛ばす、暖かい太陽の光のようで。

こっちのほうが好きだな。

なんて、漠然と思った。


第14話→←第12話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (43 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
98人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:こばやし | 作成日時:2017年4月2日 20時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。