第13話(E side) ページ13
どんっ。
若干荒々しく、皿が目の前に降りてきた。
恐る恐る振り向けば、いつものバイト君。
「‥‥お通しっす」
それだけ言って去っていく。
待って、悪かったよ、俺が悪かったから怒らないでくれ。
いや、俺は空気読んで帰ると言った。言ったはずだ。
あけた扉も、そっ閉じした。でも店長さんが追いかけて来たんだ。俺は帰る気だった。ほんとに。悪くない、やっぱり俺は悪くない。
言い訳をしながらバイト君を見れば、むすっと口をへの字に曲げて野菜を切っている。
そして店長さんはというと。
「‥‥‥‥」
放心状態で洗い物をしている。もくもくと。
いやいや、口開いてます、口。
なんだこの空間は。やばすぎる。
「‥‥すいません」
恐る恐る声をかける。声が小さすぎて自分でもビビったが、店長さんがちゃんと反応してくれた。
前掛けで手を拭きながらこちらへ寄ってくる。
「は、はい!」
「‥‥なんか、すんません」
「え、いや、大丈夫です!気にせずどうぞ!」
「(気にするって‥‥)‥‥じゃあ、唐揚げで」
「かしこまりました!」
この人つえーな。
いつもと変わらない笑顔を見て、単純にそう思った。
しかし、口の端に貼られた小さな絆創膏を見て思い出す。
いや、この人本当は、
「‥‥体調はいかがですか」
気付けば、そんなことを口にしていた。
「え?‥‥あ、ごめんなさい、わたし助けてもらったのに、なんのお礼もしてなくて、」
「いや、そんなつもりじゃないです、ただ、傷治ったかなって気になっただけで」
お礼とかは別にいらない。美味しいご飯がいただければそれで。
「おかげさまで、もうピンピンしてます!」
そう言ってまた笑顔を見せる彼女に、なんとなく違和感を感じた。
「なら、良かった」
「ほんとに、ありがとうございました。今度また、ゆっくりお礼させてください」
「いやほんとに、気にしないでください」
違和感の正体がわからない。
ひとつわかるのは、
「‥‥‥‥‥‥」
キッチンからの燃えるような視線だった。
「(あいつこえー‥‥)」
「えおえおさん」
「え?」
不意に呼ばれて視線を戻す。
あれ、名前教えたっけ。
「今日もたくさん、食べてください」
その優しい笑顔を見て、違和感の正体がわかった。
「(‥‥本物は、こっちだ)」
営業用じゃない、嘘のないもの。
一切の邪念も吹き飛ばす、暖かい太陽の光のようで。
こっちのほうが好きだな。
なんて、漠然と思った。
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作者名:こばやし | 作成日時:2017年4月2日 20時