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第11話 ページ11

結局あのあと、例の2人組はえおえおさんが通報した警察によって連行された。
よくよく聞けば、最近近所で多発していた複数の男性による婦女暴行事件の関係者らしい。

しかし、そんなことどうでもよかった。


「店長、これ」


ホットミルクを手渡される。

当事者であるわたしと、大野君と、えおえおさんは、事情聴取のため少しの間店での待機が命じられた。
急遽営業は中断、シャッターを閉め、店内にはわたしたち3人だけが残っている。

「‥‥ありがとう‥‥」

思ったよりも、自分の声が掠れていて嫌になる。

情けない。

ただ、その一言に尽きる。

「‥‥‥‥‥‥ごめんなさい‥‥」
「‥‥ほんとっすよ」
「‥‥‥‥ごめん‥‥」
「俺、忠告したばっかりだったじゃないすか」
「‥‥ぅん‥‥‥‥ごめん‥‥‥‥」

大野君の顔を見ることができない。
えおえおさんの顔なんてもっと見れない。

手元のカップを両手で包むように持っても、一向に手のひらは暖まらなかった。

「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥、」

ぽたっ。


手の甲に、涙が落ちた。

止まらない。全てが止まらない。

「こ、‥‥怖かった‥‥‥‥殺されるって、‥‥おもって‥‥っ、」

顔の擦り傷が、全身にあるアザが、心が、ひりひりと痛む。


「ごめ、ん、‥‥ごめんなさい‥‥っ、ごめんなさいっ、」
「店長‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」


溢れたものをせき止めることが出来なくて困っていると、俯く視界に、えおえおさんの足が入ってきた。

いや。なにも言わないで。


「‥‥‥‥」


黙って耐えていると、えおえおさんがしゃがんだ気配がした。
それでも顔を見ることが出来なくて、ただじっとカップを見つめる。

手が、伸びてきた。

「っ!」


怖い。

無意識に反応してしまう。

わたしの反応を見て一瞬、えおえおさんの手が止まる。しかし、また恐る恐ると近付いてきて、方頬を包むように優しく触れた。



「顔、あげて」



それは、彼の精一杯の優しい声だったのかもしれない。

導かれるように彼の瞳を見る。

吸い込まれそうな瞳の色に、自然と涙は止まった。


「‥‥‥‥‥‥いたっ」


見つめていると、口の端が急にぴりっと痛み出す。

薬を塗られていた。

「ぅ、‥‥っ」

唇の端、頬、眉の横。
えおえおさんの人差し指が、顔中の傷口に触れる。

つんと香る薬品のにおい。

「跡、残らないといいですけど」


困ったように笑う顔は、街頭がなくても綺麗だと、不謹慎にも思った。


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作者名:こばやし | 作成日時:2017年4月2日 20時

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