第5話 ページ5
釈然としないFBはさておき、今度は少し、視線を下へと落とす。
｢Aさん、俺足痺れてきた‥‥｣
｢頑張れ｣
｢‥‥‥‥ｳｨｯｽ｣
しかしちょっと可哀想なので、お尻を浮かせてあげると、彼はあぐらから膝を立てるようにして体勢を変えた。
その足の間に、また腰を下ろす。
｢あ、続けるのね｣
｢うん｣
即答ですか、という言葉にも短い返事だけを寄越して。
わたしは次のターゲットに狙いを定める。
てん、てん、とほくろが見える、真っ白な首筋。
｢‥‥‥‥｣
｢‥‥‥‥｣
前にこのほくろにキスマークを付けようとして怒られた事がある。見えるところはやめろって。まぁ確かにな、なんてその時は諦めたけども、よくよく考えたら見えるところじゃなければ付けていいのかと、今更気付いた。
しかしその前に、喉のでっぱり、喉仏をじっと見つめる。
｢‥‥‥‥｣
｢‥‥‥‥なんかしゃべって｣
｢‥‥え？なんで？｣
｢喉仏うごいてるとこ見たい｣
｢なんじゃそりゃ｣
あーあーアーーーと、低い声やアホ丸出しの高い声を出してくれるFB。それに合わせて上下する喉仏は、見てて面白い。おお、動いてる動いてる。
｢すごーい｣
｢そんな動く？｣
｢うん、触っててあげるから動かしてみて｣
｢‥‥あーーあーーー｣
｢‥‥動いてるでしょ？｣
｢‥‥‥‥わからん｣
苦笑された。
自分ではわかんないもんなのかな。
喉仏に当てていた手を引っ込めて、今度はその首筋に、顔を埋める。
｢‥‥FBのにおい｣
｢‥‥加齢臭とかやめてよ｣
｢‥‥もうちょいソフトな感じ｣
｢なんだそれ｣
すうっと息を吸い込めば、香水とかボディソープとかそういうものじゃない、もっと暖かくて優しい、FBそのもののにおいがする。わたしはこれを、幸せのにおいと呼んでいる。
もっとそのにおいに包まれたくて、FBの身体を跨ぐように立てていた膝をおろし、ぐっとお尻を浮かせてぴったり身体を寄せた。
｢‥‥‥‥｣
｢‥‥‥‥｣
FBもFBで、パソコンに伸ばしていたはずの腕をそのまま、きゅうっとわたしの腰に回す。
幸せ。幸せ。
｢‥‥‥‥いい？｣
｢‥‥‥‥｣
するり。
背中のほうに、暖かいFBの手が入ってくる。
｢‥‥‥‥だめ｣
｢えっ｣
ぱちん。
やはりたたき落とす。
｢‥‥なんで｣
｢まだ明るいでしょ｣
｢いいじゃん別に！｣
｢良くない。作業して｣
｢‥‥‥‥Aのばかちん｣
本気の不満顔が見えてちょっと笑ってしまった。
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作者名：こばやし
| 作成日時：2017年9月24日 8時
