第1話 ページ1
｢‥‥何してるの？｣
背中越しに、ちょっと困ったような声が聞こえてきた。
｢‥‥‥‥別に？｣
｢‥‥別にって‥‥エリカ様かよ‥‥｣
不満げな声を聞きながら、尚も座椅子に腰掛けてパソコンから目を離さないFBの真後ろに座って、そのさらさらの髪の毛をすくい上げるように手ですいてみる。
飾り気のないシャンプーのいい匂い。
｢俺いま、ちょっと忙しいから｣
｢‥‥別に構ってほしい訳じゃないから、お気になさらず｣
｢‥‥‥‥はあ｣
しぶしぶ、と言った感じで、FBはまた上半身を少し、パソコンのほうへ寄せた。相変わらず猫背が酷い。
ちょっと遠くなってしまった髪の毛を追いかけるように、その丸まった背中に寄りかかって、いじいじと髪の毛を弄ぶ。
｢‥‥‥‥‥‥｣
｢‥‥‥‥‥‥｣
すんすん。においをかいでみたり。
くるくる。指に巻き付けてみたり。
癖もなく、案外太めの髪の毛を、1本1本を慈しむように、口付けてみたり。
あ、白髪発見。
｢‥‥‥‥あの、Aさんや｣
｢‥‥はぁい？｣
｢‥‥気が散るんですけど‥‥｣
｢気持ちの問題だよ、頑張れ｣
｢‥‥‥‥｣
FBのがっしりした両肩に肘をついて、柔らかめの背中にぐっと上半身を押し付ける。
やっとつむじが見えた。
｢‥‥‥‥む、むねが‥‥当たって、マス｣
｢‥‥変態｣
｢Aが押し付けてるんだろ！いま忙しいからやめて！｣
｢つむじが見たいの！いいじゃん！｣
｢なにその理由！？｣
ぐらぐらと上半身を揺らしてわたしを降ろそうとしてくるので、意地でも振り落とされないようにがっちり首をホールドする。ぐえええ！とカエルみたいな声が聞こえてきた。
｢つむじなんていつでも見れるだろ！なんで今なんだよ｣
｢いま見たくなったから｣
｢わがままかよ‥‥｣
FBは諦めたのか、ぴったりと座椅子につけていたお尻を少しだけパソコン側に引いて、浅めに腰掛けて、座高を低くしてくれた。
なんだかんだ言って優しい。
よしよし、なんて機嫌を良くしたわたしは、また膝立ちでFBの背中に寄りかかる。
｢‥‥‥‥FB、ちょっとハg｣
｢ハゲてませーーーーん！！！｣
｢‥‥そんな食い気味で否定しなくても｣
｢失礼な事言うな！まだ33だし！！｣
｢‥‥そうだね｣
ぷんすか怒るFBを宥めつつ、見えたつむじをくるくると指でなぞる。
FBの、いちばん高いところ。てっぺん。
｢‥‥くすぐったい｣
｢我慢我慢｣
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作者名：こばやし
| 作成日時：2017年9月24日 8時
