第29話 ページ30
窓の外を眺める。
今は午後の授業真っ只中。
「‥‥‥‥」
子守唄のような先生の講義に、机に沈んでいった子達は数しれず。
かろうじてわたしは意識をつなぎ止めているが、隣のあろまくんはすよすよと幸せそうな寝息をたてて惰眠を貪っている。
あろまくんの、ひとつ隣。
「‥‥‥‥」
えおえおくんは、頬杖をついて、じっとこちらを見ていた。
「‥‥‥‥(なんで)」
前もこんな事があった気がする。
窓から舞い込んだ風が、ふわりとわたしの前髪を攫う。
『‥‥次は、キスしてくれる?』
結局あの日、俯いて黙り込むわたしを見たえおえおくんは、困ったように笑ったあと、そう言って身体を離してくれた。
「‥‥(次も何も‥‥)」
えおえおくんの真意が掴めない限りは、もう、しないつもり。
なんとなくだけど、わたしは図書室での出来事を客観視するようになっていた。
年端もいかない高校生の男女が、大人の真似事をしては、深みにハマっていくその姿を。
そういうことに興味深々なお年頃だ。仕方ないっちゃあ仕方ない話ではある。
だけどなんとなく、いざ自分が当事者であるとなると、やっぱりここから先へ進むことに大きな躊躇いを感じてしまう。
わたしは、えおえおくんが好き。
えおえおくんは?
何をされても文句が言えないわたしを、うまくおもちゃにしようとしてるのかな。
それとも、もしかしたらえおえおくんも、わたしのことが好きで‥‥‥‥。
『君だってなんだかんだノッてるでしょ』
「‥‥‥‥」
ぶんぶんと頭をふる。
後者は絶対に、ない。
となると、えおえおくんは好きでもない女の子と、ただ好奇心や欲求が赴くままに行動しているだけ‥‥?
ちらりと横を見れば、ぱちりと視線が混じり合う。
今度は逸らさずにじっと見つめ返せば、ちょっとだけ驚いたような顔を見せた後、
「‥‥‥‥」
目尻を下げて、ふわりと、笑ってくれた。
「っ、」
バッ!とまた、視線を逸らす。
ううー!うううーーー!!!
なんであんな顔するの!
「(好き‥‥好き、えおえおくん好き)」
あんな微笑みひとつで、頭も心も好きで溢れてしまう。
やっぱりだめだ。ちゃんと、聞かなきゃ。
こんなこと続けてたら、期待してしまう。
『キスがいい』
低くて甘い誘惑。
逃げ道を塞ぐ両腕。
わたしの顎をすくう指先。
柔らかい、唇。
「ーーーーっ!」
思い出して、また唇を噛んだ。
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とん - 尊すぎてしにました…ありがとうございます… (2020年7月24日 23時) (レス) id: 3faf487191 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 素敵な作品でした〜読んでいてキュンキュンさせていただきました!!彼の口調とか言い回しが似ていて凄いなと尊敬しました。本当に凄いです!!最近ハマったのですがこれからもっともっとハマりそうです〜!!本当に素敵な作品ありがとうございました!! (2018年9月21日 14時) (レス) id: c0eacb0216 (このIDを非表示/違反報告)
りんご豆腐二世(プロフ) - 返信ありがとございます!!これからもこばやしさんの小説を楽しみにしてます!!頑張ってください(っ`・ω・´)っ (2017年7月10日 19時) (レス) id: 9165d543dd (このIDを非表示/違反報告)
こばやし(プロフ) - りんご豆腐二世さん» コメントありがとうございます!レス遅くなり大変申し訳ありません……!学生時代に赤点を取りまくった国語ですが、ぶっちぎりで褒めて頂き大変光栄でございます!これからもキュンキュンして頂けるように頑張りますっ!!! (2017年7月10日 19時) (レス) id: 110986f160 (このIDを非表示/違反報告)
りんご豆腐二世(プロフ) - 初コメ失礼しますm(._.)mこばやしさんの小説は初めて読んだのですが、文章力が凄く私までキュンキュンしてしまいました!!これからも無理せず頑張ってください!!文章力がなくてすみませんm(;∇;)m (2017年6月26日 15時) (レス) id: 9165d543dd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こばやし | 作成日時:2017年5月22日 21時