【MSS.P】ちらりずむ･りたーんず【あろま.ほっと】

第7話(E side) ページ7

ぱたぱたと、スタジオまでの廊下を小走りで進む。

｢(腕時計忘れた)｣

収録中、なにかの拍子で外した腕時計。
ゲームする時は、コントローラーを持つ自分の手を見た時に腕時計がついていたような気がするから、もしかしたら、罰ゲームかなんかの時に机の上に置いてそのままかも。

お気に入りの腕時計だ、回収しなくては。


扉が見えてきた。
サングラスもフードも装備してないから、少し走ったくらいじゃ息はあがらなかった。

カチャ。

そっと、扉を開いてみる。



｢‥‥‥‥(あれ)｣



中をのぞきこめば、そこには。


｢‥‥どちら様ですか？｣


ぱっと俺に気付いて、睨み合っていたノートから顔をあげたのは、ゆめのさんだ。
収録中、彼女が座っていたイスに、当時のままの格好で腰掛けている。その手には、ボールペン。

｢‥‥‥‥えおえおっす｣
｢‥‥ああ！えおえおさん！｣

ぱぁっと、いつもの笑顔が咲き誇った。
声で納得してもらえたようだ。

｢どうかしましたか？｣

座ったまま首を傾げて微笑む彼女に戸惑う。


あれ、こんな普通な人だったっけ。


｢‥‥‥‥腕時計、忘れて｣
｢えっ、腕時計？｣

瞬時に俺が座っていたイスのあたりに目を向けるゆめのさん。あっ、と何かに気づいたように声を上げると、イスから立ち上がって、視線の方向に一直線に駆け寄る。

｢‥‥これかな？｣

真っ黒な腕時計は、俺のだ。

｢ありがとうございます｣

俺から近寄って、笑顔の彼女から腕時計を受け取る。
彼女が座っていたテーブルを見れば、びっしりと何かが書き込まれたノートがあった。


｢‥‥ゆめのさんは、何を？｣
｢えっと、別番組の企画案をちょっと｣


はは、と笑うゆめのさんは、なんだかちょっとお疲れモードだ。
話には聞いていたが、この人ほんとになんでもやるんだな。それに、収録終わってすぐに、こんな場所で、1人で。

｢彼女さんから聞いてるかもしれませんけど、初めてのハジメさんとのマンツーのタイアップ企画なんです！｣

嬉しそうに笑う、ゆめのさん。
そう言えば昨日、ヨーグルトを食べながら同じように嬉しそうに笑っていたハジメを思い出した。

｢‥‥何か、手伝えることありますか｣
｢‥‥え？｣

気付けばそんなことを口走っていて、自分でも驚いた。
このあと、ラーメン食べに行く約束あるのに。

｢ふふ、大丈夫ですよ｣

デート楽しんできてくださいな！


そう言って笑う彼女は、俺の知らないゆめのさんだ。
この人、意外といい人かも。


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