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父の帰りを待つなんて、いつぶりだろうか。









もしかしたら初めてかもしれない。









高校生になってもこの部屋は広くて、小さい頃はよくこの場で一人で過ごせていたものだ。









玄関からヒールの音がして、女といるという事が嫌でも分かる。









リビングのドアが開いたと同時に、私はソファから立ち上がり振り返った。









顔を合わせるのもいつぶりか、家にいないか部屋にこもるかの私がここにいる事に、父も女も驚いていた。









泣き腫らした目で真っ直ぐに見つめ何も言わない私に何かを感じたのか、父は女に「…今日は帰ってくれ」と言った。









父の真剣な低い声に怯えて女は何も言わずに出て行った。









私を優先してくれる事なんて、今までにあっただろうか。









「…A、」









記憶を辿っても思い出せないほど全てが久しぶりで、父の口から私の名前を聞くだけで泣きそうになる。









憎くて仕方なくて、言ってやりたい事なんて数え切れないほどあって、全部全部ぶつけてやろうと、そう思っていたはずなのに、いざ目の前にすると息も出来ないくらいに苦しくなって言葉が出てこない。









「…A」









父がもう一度私の名前を口にする。









それはさっきよりもハッキリと聞こえた。









「……いいの?、…あの人」









やっと出た声は情けないくらい震えた小さな声だったけど、父はその声に少しビクッとして背筋を伸ばす。









「…あぁ、いいんだ」









「…私の名前、覚えてたんだ」









「…娘の名前を、忘れるわけがないだろう」









…娘。私を娘だと思っていたんだと驚いた。









「それで、親だと思ってるの?」









父親らしい事なんて、何一つしてくれなかったくせに。









何も与えてくれなかったのに私から全てを奪って、よくそれで親だと思えるよな。









怒りを通り越して呆れてくる。









だけど零れるのは笑いじゃなくて涙だった。












いつの間にか頬は濡れていて、あんなに泣いてもまだ泣けるんもんなんだなと思う。









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バンビ(プロフ) - ただの渡辺担さん» コメント、リクエストありがとうございます。是非、参考にさせて頂きます。これからもよろしくお願いします。 (2021年3月27日 12時) (レス) id: 99dc10468d (このIDを非表示/違反報告)
ただの渡辺担 - すごい面白くて全作品読ませていただきました!今リクエスト募集されているのかわからないのですが、よかったら『ワインクーラー』をテーマにした作品を読んで見たいです! (2021年3月27日 10時) (レス) id: cfc10ba5d0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:バンビ | 作成日時:2021年2月18日 11時

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