キスしないと出られない部屋【文スト】

キスの後　　　　　　　　　　織田作之助 ページ21

「作之助！見てこの記事！作之助の本が本屋大賞を受賞したって！！」
「そうか」
「もおーっ！反応薄いなぁ。分かってる？ほ、ん、や、た、い、しょ、う！」
「ああ」
「………作之助は分かってない」
「分かっている。俺がこうやって本を出せるのも俺を生かしてくれている人たちのお陰だ。一番身近にいるのはA。そして遠くにいるのは、顔こそ知らないが俺を確かに支えてくれている人達」
「何だか、何時になく感傷的だね？」
「……………………恐ろしい夢を、見た」
「夢？」
「俺は太宰の腕の中で死へ向かいながらも、お前との幸せを夢に見るんだ。海辺に建つ小さな家で、お前と手を繋いで。だが、俺がお前にキスをねだるとお前は途端に涙を溢して言った。約束を守れなくて御免、と」
「…………うん」
「目が覚め、棺桶に腰まで突っ込んでいる俺はそれらが全て夢だったのだと。幸せな夢だったのだと気づいて、酷い空虚感に苛まれ死んでいく」
「…………作之助」

ちゅ

「大丈夫、作之助は生きてるよ。この幸せは本物だから。私と作之助で、頑張って作ってきた幸せだから」
「………A、肩を借りても……いいか？」
「いいよ。もう、いっぱい濡らしてくれていいから。大好きだよ、作之助」
「俺も、愛してるっ……」





「A」
「何？」
「実はこの夢にはとても親切な魔女が出てくるんだ」
「へえ？」
「俺を生き返らせるために涙の洪水をおこしながらザオリクだとかビビデ云々だとか叫んでいた。名前は確か、Lan、花姫、御卯丼、うさぎもち、大日如来だったはずだ」
「五人の魔女かぁ…………。て言うか、夢の内容をよくそこまで記憶してるね」
「変か？」
「変じゃないよ。ただ、その五人とは何か特別な繋がりがあるのかも」
「それなら、念のため手帳に書き込んでおこう」



生きている不思議、愛せる奇跡

生かしてくれて有り難う

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