【糸師凛】ママを捨てたお父さんはいつも何を考えてるのか分かんない。

1、「きえてしまう」 ページ1

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さいごに聞いたおかあさんの声はふるえていた。
泣いてた。それと、とてもおこってた。


　


夜おそく、トビラのおくから聞こえてきた2人のお話しに耳をすませていたら、お父さんがこっちにくるのが見えた。


いそいではしって、自分のへやにもどる。
ふかふかのベッドの中に入って、おやすみなさいのフリをした。



だれかが入ってきた。
ゆっくりと、しずかに。私をおこさないようにやさしく。



大きな手が私のあたまをなでた。


　


「A」


　


だいすきなお父さんの手。

もっとさわってほしいけど、私は今ねたフリをしているんだ。



でも、どうしてもぐ、と口がまがってしまう。

やっぱりさわってほしい！


　


「……っふ、変な顔」


　


ほっぺをむにっとさわられた。
そこじゃないのに。



下からさけび声が聞こえてくる。
とてもおこったような、はじめて聞くようなおかあさんの声。

びっくりして体がふるえた。



おかあさん、どうしたの？
おかあさん、こわいよ。


　


「大丈夫だ。お前はもう何も心配しなくて良い」


　


またお父さんがあたまをなでてくれた。

でも今は、おかあさんが、



　



「今まで悪かった。………A、お休み」



　



お父さんの声がいつもよりやさしいのはどうしてだろう。


　


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