兄者も苦労性だね……弟者さんside ページ10
「ごめん、ごめん。……待たせたな!」
「おっつんが似たようなことした時、お前どんな顔してたっけなあ」
意地悪気に、だけど少し機嫌が悪そうな兄者の表情に顔がひきつらないわけもなく。
俺は慌てて酒を選ぶ体制に入る。
流石にいつも通う酒屋とだけあって、何処に俺好みの酒があるのかとかわかるから兄者の先を歩いて桃にパインに、淡々と俺の好みで酒を入れる。
そこに申し訳程度に比較的度数の低いカクテル系の酒も入れて籠の中を確認する。
たった今入れたカクテル系の酒と、俺が入れた覚えのない日本酒、ビール以外には入ってない何とも悲しい籠の中身に思わずカートの持ち主を見ると、顔色一つ変えず酒を物色する兄者。
まさか。そう思いながら今度は適当に酒をいれながら横目に兄者の行動を確認する。
一つ、また一つと入れる度に丁寧に戻していく姿をばっちり確認したところでツッコむのは当たり前。
「なあ、おっつんがAちゃんに惚れてるって気づいてんだろ」
「……うん、気づいてた。けどその行動と今の会話の相互性が分かんないんだけど」
「嘘つくな」
何やら説教じみた会話が繰り広げられそうで軽く身構えた俺の頭を、兄者は優しく一撫でして後悔する行動だけはするなよ。なんて言って先を歩きだす。
「兄者も苦労性だね」
兄者の一撫でに隠された一つの感情。それは一生表に出される事は無いものだと兄者の目が物語っていた。
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作者名:nnanjokei | 作成日時:2018年7月16日 22時