3……兄者さんside ページ9
「忘れろ、とは言わないけどさ、そろそろはっきりさせた方がいいんじゃない?」
帰り道、気づけばAと初めて出会ったあの場所に俺は立っていた。
「……そういえば」
あいつと出会ったのもここだった。
冷たい風が、暖かみを帯び始める春先にヒールの踵を折って転けるあいつを、偶々通りかかった俺が助けたのが付き合い始めたきっかけ。
でも、何をしても中々俺に心を開いてくれないのがむず痒くて痺れを切らした俺から別れを告げたんだ。
「……」
Aに出会ったのは、その日の昼過ぎ。
全く引き留めないあいつにイライラとしながら歩いている俺に、ハンカチを落としましたよって声をかけてきたのがA。
そん時はあまり気にも止めなかったけど、新入社員としてうちの会社に入ってきた時のあの目を見て、運命を感じた。
弟者やおっつんも並んで立っている中、真っ直ぐに俺を見た、あの芯の強い目に、俺は惚れた。
「……何やってんだよ、俺」
雰囲気は一緒でも、全然違うことに今改めて認識し始める俺は、本当にAを見ていなかったんだと実感する。
「……っ」
走って向かうのはAの家。
三十路の身体で全力疾走は骨身を激しく痛めた。
だけど、それよりも早くAを強く抱き締めて安心させたかった。
俺はAのことが好きだ、と。
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作者名:nnanjokei | 作成日時:2018年4月4日 15時