安定剤 ページ30
「はあー、うちの子マジ天使」
「はいはい、まるちゃんが可愛いのはわかったから。もう寝ないと明日も仕事でしょう?」
家族から送られてくる沢山のまるちゃん、もとい私の一番下の妹の画像や動画を見直していた私に、編集作業中だったおついちさんがヘッドホンの片方を持ち上げいつものお困りフェイスでもう寝なさいと言った。
「煩かった、よね。ごめんなさい。静かにするからもう少しだけ起きててもいい?」
「だーめ」
「……わかった。……おやすみなさい」
「おやすみ」
「……」
付き合いはじめて2年、こうしておついちさん宅にお泊まりさせてもらえるようになって約1年が経とうとしている今、おついちさんの全てが私には手にとるようにわかる!とは言えないまでもそれに近しいものがある自信がある。
わかったところで、今回の場合は私にはどうすることもできないけど。
でも何度見てもあの、おついちさんの我慢をする時の癖だろう少し困ったように笑う表情は慣れない。
「……慣れたくないからいいけど」
おついちさんは全然我慢してないって言うけどそれは本人が気付いてないだけ、私が気をつければ沢山のシグナルがおついちさんには溢れていた。
それに気づけたのはおついちさん宅に初めてお泊まりさせてもらった時だった。
あの時のおついちさんはそろそろ新幹線に間に合わないから送ってあげるって、表情こそ困ったような笑顔だったけど声色は普段通りで馬鹿な私は駅に着くギリギリまでおついちさんの我慢に気づかなかった。
馬鹿、と言うよりは完全に大好きなおついちさんと一緒にいられている“今”が幸せで舞い上がって。
おついちさんは私たちが“別れた後”を考えて帰って欲しくないけど年上の俺がわがままなんてって。
「……でも、だからと言って今日までのまるちゃんへの愛をなかったことになんてできない……」
あの日のように、私からおついちさんのわがままを汲み取ってあげられたらどんなにいいか。
それをするには私の勇気がまだ足りない。
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作者名:nnanjokei | 作成日時:2018年4月4日 15時