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不意につかまれた左腕が軽く拘束されて気づく右腕の痛み。見ると手首より少し上がひっかき傷で真っ赤になっていた。
とっさに弟者さんを見る。いつもはキラキラとした目で私を見ているのに、今はどこか怒ったような悲しそうな目で私の右腕を凝視していた。
正直、そんな弟者さんの目は私自身に向けられてなくてよかったと思うほど怖かった。
弟者さんは私の恐怖心を感じ取ったのか、慌てた様子で私の腕を離し距離を取る。
「一応、消毒しようか」
離れた距離を誤魔化すように薬箱を取りに行こうとするから、離れてほしくない気持ちが溢れ服の裾を掴んだ。
中腰で固まる弟者さんに、尚も泣き続けたまま何も言わず服を掴む私。
とてもアンバランスな空気が私たちを包み込んだ。
「俺は、Aを一生離したくないくらい愛してる。もし、俺のやってることでAが不安定になってるなら喜んで俺はやめるから。我慢しな……ぃ」
これ以上は言わせちゃいけない気がして、弟者さんの口を手で塞いで気づく。
元より私という存在は、弟者さんたちにとってアンチを増やす対象だから。どれだけ私が想ってようが、弟者さんの心変わり一つで簡単に捨てられる存在だから。
不安で堪らなかったのだ。
それがわかった途端、弟者さんのさっきの言葉が反復する。
「……私、ね。弟者さんとの秘密や二人きりの思い出がすごく大切だったの。その理由が何故か、わからなかったけど、やっとわかった。いつか弟者さんに捨てられる時が怖くて、捨てられても迷惑かけず立ち去れるようにいたかったから。だから、今日の猫派の話がすごく悲しくて」
ここまで言って、いつかの私のように口を塞ぐ弟者さんの表情は至極安心したような顔でそれはお互い様だったわけか。と呟く。
話を聞くと、お互いに何も言わなさすぎたことで起きたすれ違いだったことに思わず笑みが零れる。
いつ振りに笑うのかと思うほどお互いに笑いあい抱きしめあう。
そこに影が一つ。
「なあ、腹減ったんだけど」
〜fin〜
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作者名:nnanjokei | 作成日時:2018年4月4日 15時